BOOK(ドラズ)
□ロマンス・キス
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例えば、かの有名な戯曲のように。
情熱的な愛の物語は、いつの時代も、うら若い女性の心を掴むもので。
「さっきの映画、素敵だったなぁ」
「そうかぁ?」
うっとりと空想するドラミの横で、キッドは大きな欠伸をかます。
ドラミは、ぷぅ、と頬を膨らませた。
キッドとのデートに、話題のロマンス映画を選んだのは、やっぱり間違いだったか。
眠そうに目を閉じたり開けたりしているキッドは放って、ドラミは通路の左右に並ぶショップを眺めることにした。
ショッピングモールの、二人がいる界隈は、ロマンティックな内装のショップが並んでいる。
映画の高揚感が続いている今なら、物語に入り込んだ気分も味わえそうだ。
ロマンス的なものを、キッドに期待してなんていない……ないけど!
「……あのラストシーン、憧れちゃうな」
呟きがドラミの唇からこぼれた。
映画のヒロインは良家の令嬢、相手はその使用人。
物語の終盤、ヒロインは使用人の青年に連れられて、街へ繰り出す。
人目を気にする令嬢に、青年は大きな帽子をかぶせて――。
「こんな感じにか?」
「きゃっ」
急に視界が暗くなった。
横からひょっこり、キッドの悪戯っ子みたいな顔が現れる。
ドラミの頭には、彼愛用のテンガロンハット。
「どうだ?」
「キッドっ!ど、どうだって……」
そんなキラキラした顔でこんなことをされたら、心臓に悪いったらない。
ドラミは所在なくて、かぶせられた位置を直そうと、ハットに指を伸ばす。
けれどその前に、キッドの手によって耳側にずらされた。
横から見ると、ちょうど帽子で顔が隠れる具合だ。
そう、映画の青年もこうやって、令嬢を隠したんだ。
それから――。
いつの間にか、キッドの体が正面に来ていた。
綺麗な青い瞳が近づく。
思わずぎゅっと目を瞑ったドラミの唇に、ぬくもりが落ちた。
ほんの一瞬、だけどまるで、ヒロインになったみたいな。
周りの音が消えて。
ドラミはテンガロンハットのつばを掴んだ。
あの令嬢も、こんな気持ちだったのかな?
ううん、違う。
だって、このドキドキは、私だけのものだもの。
《後書き→》