BOOK(ドラズ)
□寂しくなんて
1ページ/2ページ
「キッドのバカっ!!」
寝起き早々、キッドは最愛の彼女に怒鳴られて、目を白黒させた。
タイムパトロール隊の長期任務に就いていたキッドは、任務完了後、二十二世紀の日本――ドラミのところへ癒やしを求めてやって来た。
そこまではいい。
しかし、彼女に会った途端「腹が減った」と倒れ込み、特製どら焼きを平らげた後、ソファーを占領してぐーすか寝始めたのだ。
それが半日前の早朝の事で、今はすっかり日も暮れて夕食の時間帯だ。
恋人同士なら甘いじゃれ合いを期待したいのが女心。
しかし、たっぷりと寝たキッドが呑気に「飯はまだ?」なんて言い出したものだから、たまらず爆発したと言う訳だ。
「いきなりなんだよ」
「なんだよ、じゃないわよっ!突然帰ってきて好き勝手にして、またご飯作れって!?」
「や…わりぃ」
キッドは眉根を下げる。
「それに、ロクに連絡もしないで!」
「仕方ないだろ。忙しかったんだし…」
耳も若干垂れていた。
「なによ!こっちがどれだけ心配したか…!」
「え?」
ソファーの上で縮こまっていたキッドは顔を上げた。
ドラミは己で何を言ったのか分かったらしく、顔を隠して逃げる。
「ちょ、待てって!」
キッドは彼女を追いかけて、後ろから抱え込んだ。
「やっ!離して!」
「そうはいくか」
じたばたともがくドラミのお腹で腕をしっかり固定する。
「なぁ、心配してくれたのか?」
「し、してないもん!」
「まったまたー。オレがいなくて寂しかったんだろ?」
「寂しくないもんっ」
ぶすくれたドラミの頬にキッドは自分のを寄せた。
そして耳の傍で囁く。
「オレは、寂しかった」
「えっ…」
「ドラミにすっげー会いたかったしな」
「そ、そんなこと言われたって…」
キッドはドラミの頭を優しく撫でる。
「ほら。正直に言ってみ?」
「う…。べ、別に寂しくなんて……寂しく、なんて…っ、うぅ〜っ」
大きな瞳に涙が滲む。
キッドは彼女の体をくるりと回して、今度は正面から抱き締めた。
「よしよし」
「…っ、寂しかったんだからっ」
「うん」
「心配したんだからぁ…!」
「うん」
それからドラミは、キッドの胸にしがみついたまま、ありったけの文句を並べ立てた。
キッドはそれを、ただひたすら聞いていた。
《後書き→》