BOOK(ドラズ)

□連れ去ってPRINCE!
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「貴女にはこの私と、恋人たちの過ごす場所へ繰り出す権利がある。それを遂行するべきだとは思わないか?」

ドラミは困り果てていた。

ドラミを熱く見つめるのは、学生時代の同級生だ。
不遜な口説き文句を垂らしながら跪く彼に、要するに、ドラミはデートに誘われているらしい。

「ごめんなさい。わたし、そういうのはちょっと……」

彼の顔の前でぶんぶんと手を振れば、今度はその手を握られた。
そしてまた、砂糖と塩を間違えたようなセリフを浴びせられる。

ーーどうしよう、大切な約束があるのに……。

その時、地面を硬いもので叩く音がした。
それが馬の蹄だと脳が判別するのと同じく。

「ーー待たせたな、ドラミ」

望んでいた声に、ドラミの気持ちがふわりと浮き上がる。

差し出された、グローブをはめた大きな手の平。
反射で手を伸ばせば、ひと息に引き上げられた。

馬の背に落とされて、腰の前後から腕を回され固定される。

この馬はペガサスのように翼を持つ。
一際強い蹄の音と羽ばたきで、地を離れたのだとわかった。

ドラミは手綱を持つ相手にしがみついた。

「キッド! びっくりするじゃないっ!」

急に高さが変わったのと抱き抱えられたのとで、ドキドキがおさまらない。

「悪い悪い。けど大丈夫だったろ?」

少年のように悪びれなく、真っ直ぐ見つめられて、胸の奥がいっそう熱くなった。

「だからガサツくんなのよ……」

ドラミはキッドの胸に額をあてて、顔を隠した。

同級生からしてみれば、告白中に彼女を連れ去られたように写ったかもしれない。
けれど、白馬の王子様はこちらなのだ。
目を点にしているのかもしれない彼に対して、心の中で小さく謝る。

王子様がひと声かければ、白馬はノリよく返事をして空を駆けていく。

いくら風に吹かれても、ドラミの体も心も、ずっとあたたかかった。



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