森山夢

□教えてよ
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「……ふ」

無意識に笑いがこぼれた。

手を止めて振り返った深月に、胡乱げな視線を向けられる。

「あぁ、なんか楽しそうに仕事してるからさ。深月ちゃんは本が好きなんだな」

「あ……はい。そうですね」

深月はもじもじと本の背表紙を撫でる。

「どんな本が好き?」

君のこと、もっと深く聞かせてーー。
と言いかけて、森山はすんでで呑み込んだ。
昼休みに、「相手の好みを知ろうとしてがっついちゃダメっス!」と、後輩から言い含められたばかりだ。

「そうですね。よく読むのは現代の小説ですね。ホームドラマになった作品とか……。あと、直木賞を取ったものもたまに読んだりします」

「へえ」

森山はほっとした。
好きなものについてしゃべっているからか、少しずつ緊張がとれてきているのを感じる。

「じゃあ今度、深月ちゃんのオススメを教えてよ。そうだな……オレは普段あんまり本とか読まないから、とっつきやすそうなのだと助かるかな」

「わ、私でいいんですか……?」

深月は遠慮がちに言った。

森山は、できるだけ優しげに見えるように微笑んでみせる。
これくらいはイケるだろう、黄瀬よ。

「きみだからだよ。深月ちゃんが選ぶんだ、きっといい本に決まってる」

すると、彼女の戸惑いの中に、わずかに照れが滲んだ。

「はい……。じゃあ、今度……」

瞬間、胸中で叫んだ森山だった。



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