森山夢
□教えてよ
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新着ブースに向き合って、深月が本の入れ替えをしている。
近くの席で絶妙に頬杖をついた森山は、そんな彼女の腰のラインを眺めーーもとい、そばにある新着図書を山積みにしたカートに躓かないか見張りーーもとい、仕事ぶりを見守っていた。
部活終わりに図書室に寄ってみれば、人はいないのに明かりは点いている。
ただ一人、深月が図書委員の仕事をしていた。
時間も時間で、女の子を一人残して帰れるはずもない。
森山は手伝いを申し出たのだが。
「委員じゃない人に手伝ってもらう訳にはいかないので……。大丈夫ですから」
控え目ながらきっぱり断られたのだった。
カートには様々な本があった。
文庫やハードカバー、シリーズ物の図鑑、町の記念誌らしきものまで。
それらには収められるべき位置があるらしく、深月の手によって収められていく。
テキパキと作業する深月を見ながら、森山は思う。
ーー律儀な子だよな……。
深月が体育館に来た時もそうだった。
てっきり、よくあるように自分を追いかけてきてくれたと思ったのだ。
けれども彼女は、ただ失態の謝罪をするためだと言った。
そして実際、謝るだけで帰った。
今だって、大して意欲的でない今日の当番がバックレたおかげで、深月が替わりにやることになったのに。
文句を言わないどころか、こまこまと動く背中が明るい。
彼女は、新品だからという以上に、本を大切に扱っているように見える。
決して無理につめすぎないように、帯ですら折れることに気をつけて。
きっと、本に触れることそのものが好きなのだろう。