森山夢
□Fawn Girl?
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健康的な脚はしなやかで。
細い腰の上には、心情をかき乱される双丘。
大和女性の手本とも言えるような、綺麗な黒髪。
何より、好奇心に満ちた瞳は一度出会ったら忘れられない。
それでいて、警戒心の強い小動物のような行動。
「……そう、まるで子鹿のようなあの子に、オレは一目惚れしたんだ!」
片手を胸に置き、片手を上に掲げて、森山は高らかに宣言した。
「そっスか……」
いかにも義理的に返したのは黄瀬だ。
部活中のランチタイム。
輪を作ったレギュラーメンバーの反応は、実に様々だった。
「いいところがすらすら出てくるなんて凄いな。その子のこと、ちゃんと見てるんだなぁ、森山」
と、小堀は純粋に感心し、
「うぉおおおっ! さすが森山さん! オ(レ)も見な(ら)います!」
と、なぜか早川が興奮する。
笠松に至っては、森山に一瞥すらくれず、無言で弁当の肉じゃがを咀嚼している。
「つーか、子鹿はナイっスわ……」
「その子、世良さんだっけ? 早川と同じクラスなんだろ?」
黄瀬の呟きは幸いにもスルーしてもらえた。
小堀が問いかけて、早川が頷く。
森山は腕を組んだ。
「そうなんだよ。こうして接点はできたんだが、まだ慣れていないせいか、警戒されていてね」
アンタに迫られたら、誰だって警戒するでしょーよ。
……とは思うが、不用意に口には出せない黄瀬である。
「純な反応もいいけど、オレとしては、やはりもう少し打ち解けたい。そんな訳で、オレはこれから図書室に通いつめる」
黄瀬の目が点になった。
「……森山先輩、知的アピールっスか?」
「そうじゃない。彼女は図書委員らしいからな。馴染んだ場所の方が、警戒心も和らぐだろう」
「なるほど……」
それに、図書室という静けさを求められる場所なら、森山が残念な方向に走ることもないだろう。
自分ほどではないが、彼も美男子の域なのだ。
先輩の恋路を応援したい後輩の身としては、嬉しいことだ。
「それに、図書室なら自ずと会話は小声になる。二人にしかわからない、二人だけの内緒話とかロマンティックじゃないか!」
黄瀬はがっくりとうなだれた。
一瞬前に少しでも喜んだ自分を責めたい。
森山は拳を固め、目をギラつかせーーもとい、輝かせている。
そんな先輩の相手が良心的な人であることを、心から祈った黄瀬だった。
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