森山夢
□悪い人じゃない?
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振り返ったところにいた男子生徒は、確かに格好良かった。
じゅうぶんな長身に、どこか甘さのある涼やかな目元。
ところが、だ。
その目元から発せられる熱すぎる視線は、深月を困るにいたらせるにじゅうぶんだった。
……それは、運命だ、から始まった。
「……オレの方から見つけ出すつもりが、まさかこんなに早く、この腕に舞い戻ってくれるなんて! これを運命と呼ばずして、なんとするのだろう!」
「あ、あの……」
先ほど受け止めたはずのボールはどこへやら、彼の両手は深月のそれをしっかり掴んでいた。
男の子は……苦手。
と言うより、どんな風に話せばいいのかよくわからないのだ。
気さくな相手だったら、なんとか会話になる。
けれど、目の前の彼は気さくと言うか、なにかが違う気がする。
「オレは森山由孝。君の運命の男の名前だよ。よければ君の名前を、この耳に刻ませてくれないだろうか?」
何を言われたのか、一瞬わからなかった。
彼のセリフを脳内で変換して噛み砕いて、名前を教えてくれと言われたのだと理解する。
「世良深月、です……」
すると彼――森山の顔が、ぐいっと近づいてきた。
深月は思わず反った。
「恥じらうところも魅力的だ。だけど、できるならば、もっとはっきりと伝えてほしいんだ。なんなら、直に囁いてくれても構わない」
「え、え……?」
さぁさぁ! と、森山に迫られる。
もう息と息がこすれるくらいに近くて……。
シトラスが強まった。
「……う」
「ん?」
「うにゃあああぁぁっ!!」
深月は彼の手ごと突っぱねた。
叫んでから、気づく。
森山は諸手を上げて、猫に追突された時のような顔をしていた。
「ご、ごめんなさいごめんなさい! 私ったら、また……!」
謝ろうと思っていたのに、こんなことじゃあ仕方ない。
「いや、気にしてないさ」
と、彼は前髪をかきあげた。
「知的な女神が、子猫のような愛くるしさも持ち合わせているなんて。新しい発見があって嬉しいよ」
「め、女神……?」
彼のボキャブラリーには戸惑うけれど、悪い人ではないのだろうか?
自分も話してみて、いい?
深月の中に、そんな気持ちが浮かんできた。
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