森山夢
□シトラスな先輩
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体育館に、Tシャツの生徒が続々と集まって来る。
ボールやらなにやらを準備しているのは一年生だろうか。
――背が高い人ばっかり……。
それが男子バスケ部の印象だ。
早川が着替えて来るのを待つ間、覗いてみたりしていたのだけれど。
そのうちに気圧されてしまって、今では扉の脇のくぼみに埋まっている深月だ。
部員の邪魔にならないかと気になったが、彼らはたいして気にする風でもなく、深月の前を通っていく。
「世良ー! わ(る)い、待たせた!」
「ううん、大丈夫」
とは言うものの、内心、ほっとした。
「ちょっと待って(ろ)!」
早川はまず入り口で挨拶して、体育館に入る。
それから近くの部員に声をかけた。
「小堀さんっ!」
あの人も三年生なのだろう。
「森山さんはまだ来てないっすか!?」
「あぁ。日誌を書いてから来るらしいぞ。でも部活には間に合わせるって言ってたから、もうすぐ来るんじゃないか?」
「あ(り)がとうございますっ!」
早川は、駆け足で深月のところに戻り。
「世良! 森山さんもうすぐだってよ!」
「は、早川くん、大声で繰り返さなくていいから……」
早川をストレッチに送り出した。
バスケ部の三年生だと言う、森山さん。
そもそも、ただ謝るだけのために来るって、どうなんだろう。
それに人違いかも知れない。
けれども、あの人が森山さんだとしたら、先輩を思いっきり倒してしまったことになる。
それはやっぱり謝るべきだし……。
深月が、本人に会ってもいないのにしりごみしていると。
「スイマセンッ!」
ハッと顔を上げれば、ボールが跳んできた。
床で弾んだそれを、反射的に取ろうとして――。
パシッ、と。
横から現れた何かに遮られた。
同時に、深月を頭のてっぺんから包んだもの、それは。
――シトラス……!
「運命だ……」
ため息混じりの声が落とされた。
「え……?」
昨日と比べても、どちらの方が近いだろう。
そのくらいの距離に、熱のこもった瞳があった。
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