森山夢

□見つけてみせる
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森山は刹那のためらいもなく、腕を広げた。
そこに柔らかい体がぶつかってくる。

彼女を抱きとめた瞬間、女性の魅力は、森山の嗅覚を支配した。

――なんていい匂いだ……!

まるで、腕の中で幾輪もの花が、同時に咲いたかのような。

――このまま寄り添い、息を重ねあって……。

あらぬ方向へ飛びかけた意識は、背中の衝撃によって、しっかりと繋ぎ止められた。

「〜〜〜〜〜っ……」

無言で悶える。
床に打ちつけた背は地味に痛い。

しかし、女の子の手前、あくまでも平静を装って、森山は彼女に声をかける。

「きみ、大丈夫かい?」

彼女は、はっと顔を上げた。

大人びた面立ち。

けれども、森山の心を捕らえたのは、好奇心旺盛そうな瞳だ。
印象的なその煌めきは、森山の脳裏に一瞬で焼きついた。

「あ」

あ、の形に口を開けた彼女は、瞬間移動かと思うほど、素早く森山の上からどいた。

「みゃあああああっ!!」

「へ、いや、ちょ……」

突然の悲鳴、いや奇声に、森山はあっけにとられ、周りの生徒は何事かと振り返る。

「ごご、ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさいっ!!」

彼女は、整った相貌を青くして、どこぞの謝りキノコばりに、謝罪を繰り返す。

そして次の瞬間には、慌ただしく図書準備室に逃げてしまった。
更に奥から扉の開閉する音が聞こえたところからすると、準備室から直接廊下に出たらしい。

足音が遠ざかるにつれて、止まっていた空気が動き出す。
いつもの、静寂という時の流れだ。

森山は座り込んだまま、己の手のひらを見つめている。

「降ってきた……女の子が……」

確かにこの腕に受け止めた。

けれども、すぐにすり抜けてしまった。

もし……もう一度、彼女がこの手のもとへ舞い来たるなら。
それは運命と呼べるのではなかろうか。

いいや、運命とは待つだけではだめだ。

――見つけてみせる……!

自分自身に決意して、森山は腰を上げた。

すぐそばにひっくり返っていた本を拾う。
彼女と一緒に落ちて来たのだろう。

森山は丁寧にカバーをかけ直して、優しく本棚におさめた。



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