森山夢

□見つけてみせる
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もしも、上から女の子が降ってきたら――?






図書室というのは、独特な空間だ。
聞こえる物音は、紙がこすれる音と、カリカリとペンの走る音。
そこに時折、人の呼吸がまじる。

本好きならばともかく、運動部の男子高校生には、むしろ苦手とする者も少なくないだろう。

海常高校男子バスケ部、森山由孝もその一人だった。
どことなく背中がムズムズするのを感じながら、課題に使う参考図書を物色する。

仮にも受験生なら、もっと図書室というものを利用した方がいいのかもしれない。

そうなれば、不可欠要素は可愛い女の子。
この落ち着かない空間に頻繁に足を運ぶとなれば、図書委員の女の子なんかベストだ。

――そうと決まれば、思いついたが吉日!

拳を握りしめて振り返った森山の目に映ったのは、本棚から突き出た大判の図説などではなく。

脚立に乗って、棚に向かって懸命に腕を伸ばした、女子生徒だった。

様子を見るに、返却された本を棚に戻すさなかの、図書委員の子だろうか。
伸ばした腕とは違う腕に、何冊か本を抱えている。

――危ないな……。……いや、これはチャンスだ。

爽やかに笑いかけて手伝いを申し出れば、好感度はバッチリだ。
それから手をとって、デートに誘う。我ながら素晴らしい!

意気込んだ森山は、すぐさま行動に移す。

「ねぇ、きみ……」

その時。

彼女の乗っていた脚立が、ガタッ、と鳴った。

――嫌な音が……。

細い体が森山の側に傾いてくる。

女子生徒の目は驚きに見開かれた。
それは、自分がバランスを崩したことよりも、そこに人がいたことに対する驚きだ。

「よけて……っ!」

切迫した声が森山の耳朶に届く。

……人間、いざという時ほど、咄嗟に動けるものではない。

しかし、それ以上に。

たとえ我が身が傷つこうとも。
女の子が床に激突する、という悲劇など許さないのが、森山という男だ。
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