秀徳夢・他

□前髪にkiss
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「と、届かない……」

掃除当番で黒板の板書消しを引き受けたひよだが、自分の身長を考えてなかった。

化学実習室は教室と違って踏み台がないから、まだ上の方が消せていない。
ぴょこぴょことジャンプすれば届くには届くけど、それだと力が入らない。

やっぱり誰かーー背の高い男子に代わってもらおう。
そう考えた時。

ひょい、と視界に頭が現れた。

「オレやろうか?」

「高尾くん! よかった、お願いします」

二つ返事で高尾は残りを消し始めた。

こうして隣に並ぶと、改めて思う。
同い年の男子の中では、彼だって背が高い方なのだ。
チョークの粉をかぶらないように一歩下がれば、肩幅の広さもよくわかった。

練習や試合で、もっと薄着の姿を見ているのに……。
この感覚は、まるで、初めて彼の存在を知ったみたいなーー。

「ほい、終わったよ」

黒板を見れば、そこに文字があった跡すらきれいになくなっていた。

「ありがとう、高尾くん。助かっちゃった」

「いえいえ〜。……あ、ひよちゃん。前髪に粉ついてるぜ?」

「え、ほんと?」

一歩引いただけじゃ、あまり意味なかったみたいだ。

「払ってあげるから、ちょい目つむって」

遮断した視界のかわりに高尾の手を感じる。
前髪を揺らされてーー。

ちゅ。

明らかに指ではない感触が額に落とされた。

「よし、取れた」

「た……っ、高尾くん……! いま……!?」

「んじゃ、また部活でな」

にぃっと歯を見せて笑って、高尾は相棒に絡みに行った。

ひよは慌てて顔を隠すも、それよりも早く熱が上がっていく。
彼が落としていったものは、ものすごく刺激的すぎた。



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