秀徳夢・他

□酸素の不足
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「ゆきって、キ……キスしてくれたりしないの?」

瞬間、パックの牛乳を吸っていた笠松は吹いた。
それはもう、よく漫画であるように、思い切り。

次いでトマトも脱帽するほど顔を赤くする。

「おおお、お前はっ、何を急に……!」

「急じゃないよ。付き合って二カ月なのに、ゆきは全然触れてきてくれないから……」

「ふ、触れ……!?」

笠松の声が裏返った。

この彼氏は女の子の耐性ゼロで、超奥手。
不満はないけれど、何も起こらないとなると、ふとして寂しさが吐息としてもれてしまう。

こっちだってそういう気が起こらないワケじゃ……とかなんとか、当人が何やらぶつぶつ呟いていて。

かと思えば、両肩を至近距離で掴まれた。

「……あの、ゆき?」

「キス……っ、するぞ……っ!」

失神させられるかと思った。

耳まで赤くしておきながら、それを凌ぐほどの真っ直ぐな力強い視線に、動けない。

触れた笠松の唇は熱くて、乾いていた。

動かしたり角度を変えたりする訳ではない。
なのに、触れ合ったところから順々に、じっとりと熱に侵されていく感覚がして。

ぐらりと傾いた首が笠松の胸にぶつかる。
何度も上下する胸に、酸素が足りなくなっていたのだと気づいた。

それから、自分のものではない、暴れまわっている鼓動を頬で感じる。

「もしかして……ゆきも苦しい?」

「……悪ぃかよ……」

肩に置かれた手はそのままだ。

「悪くない……」

それからしばらく、二人して酸素の吸収に取り組んでいた。



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