秀徳夢・他

□伸びやかな春の日に
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従妹は幸せそうにケーキを頬張る。
己でも甘やかしている自覚はあった。

「ね、清くん。最近バスケはどう?」

宮地は中身の半分ほどまで減ったカップをソーサーに戻す。

「おー、調子いいぜ。今年はレギュラーでいけそうだ」

「本当!? おめでとう!」

ひよが目を輝かせて喜んでくれるから、宮地自身もつい口許が緩みそうになる。

「手応えはあるしな。それに……スタメンの可能性も感じてる」

「すごい!」

しかし、気を抜くことは許されない。

宮地はカップを口許に運び、傾けはせずにーー瞼を半ば伏せた。
同級の男子より大きめの目に、僅かに険が宿る。

 『秀徳にキセキの世代が来る』

春休み中の部活で監督が告げた言葉は、部員たちを震撼させた。
伝統と実績を備えた秀徳の厳しいレギュラー争いが、更に過酷になることが容易に予想できるからだ。

大幅な戦力アップになるのは間違いない。
ただしそれは、レギュラーになった上での話。

譲る気なんぞ、さらさらない。

甘ったるいコーヒーを、宮地は喉の奥に流した。

「私、また応援していい?」

「おう。期待してるぜ」

ケーキのてっぺんに鎮座している砂糖漬けの桜を、従妹がにこにこと口に含む。

最初で最後の、伸びやかな春。



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