秀徳夢・他
□伸びやかな春の日に
1ページ/3ページ
花の匂い伸びやかな春の日。
秀徳高校への入学を明日に控えたひよは、従兄とともにショッピングへ出ていた。
店の装いも、街を歩く人々の表情も春めいて、そこに飛び込めば、一緒に楽しい気分になってくる。
休憩に入ったカフェのメニューも、やっぱり華やかだった。
スクランブル交差点を眺められる二階席を陣取って、ひよは従兄を待つ。
「お、いい場所取ったじゃん」
商品が乗ったトレーを手にした従兄が戻ってきた。
ほんの小さなことでも、従兄に褒められると、ひよはほわっと温かい気持ちになる。
「清くん、ありがとう」
「ん」
従兄はトレーをテーブルに置いて、イスを引く。
長い脚が窮屈そう。
自分のぶんのハニーカフェオレを引き寄せて、スティックシュガーを入れている。
ひよも、お願いしたココアに口をつけようとしたが、はたと気づいた。
二人のカップがあって、それの他に。
ふんわりと柔らかそうで、ピンク色が可愛らしい、桜のシフォンケーキがあった。
レジカウンターで期間限定品だと勧められたものだ。
ひよは首を傾げる。
従兄が甘党なのは知っていたけれど、アスリートはスウィーツも欲しいものなのだろうか。
「清くん、ケーキも食べるの?」
「いや? これはお前の」
と、トレーごとひよの方へ押す。
「私?」
ひよが瞬けば、従兄は口の端をにっと上げた。
「そ。兄様からの入学祝いだ。ひよ、こういうの好きだろ?」
こんなだから従兄は格好良くて、きゅんとしてしまう。
だからひよは、自慢の兄でいてくれる彼が大好きだった。
「うんっ!」
.