秀徳夢・他

□思い出には、まだできない
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昇降口を出た笠松は、冷たい空気に首をすぼめた。
ちろちろと雪が降っている。

――寒ぃな…。

吐き出した息は白く凍った。
日々追うごとに、日照時間は長くなっているはずなのに、疑いたくなる。

「よ、笠松」

背後から声をかけた森山が、隣に並ぶ。

「おー」

いらえて、ふと、笠松は眉を寄せる。
そしてすぐにそれを解いた。

この友人と、こんな風に、放課後になって初めて言葉を交わすなど、ずっとなかった。

「お前、正月何してた?」

「何も。そば食って餅食って、勉強してたよ。お前は?」

「オレは、大学に行ってカワイイ女の子をデートに誘う算段を」

「まずその大学に入る算段をしろ」

笠松は、森山のろくでもない台詞を遮ってつっこむ。

けど、森山の学力はそれなりだから、大して不安要素もなく、第一志望に受かるだろう。

歩いているうちに、前方に小堀を発見して、二人で隣に並んだ。




話題はやはり、受験のこと。
センターまであと半月だ。

いつの間にか、気がつけば三人でいるようになって……。
尽きなかったバスケの話。

それが日常になったのは、いつからだったろう。

うっすら積もった雪を、三人分の足音が踏みしめる。

あの燃えたぎる激動は、目を閉じれば今も――蘇る。

思い出にするには、あまりにも鮮明で。

「今日もやってるな」

小堀の声に、笠松は回顧の渦から引き上げられた。

友人の視線の先は、明かりの点いた体育館だ。
強豪であるためには休みはない。
飽きるほど足を運び、されども決して飽きることなどなかったその場所が、今はひどく焦がれて。

「なぁ。ちょっとさ――」

誰ともなく踵を返す。

笠松たちが残した足跡に、雪は静かに降りていた。



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