秀徳夢・他

□星に願うは恋の行方
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少し下を向いて、飲まないでいたおしるこの缶を、両手で包む。
緑間くんが買ってくれたものだ。

ふと顔を上げれば、緑間くんと目が合った。

「え、あの……?」

なんとなく、彼の学ランのボタンに目線を落とす。

「いや……寒くはないか?」

「珍しー!真ちゃんが女の子を気遣うなんて」

「うるさい、高尾。黙ってこげ」

へいへい、と高尾くんは自転車をこぐ。
人力車みたいで申し訳ないけど……。

「大丈夫。ほら、おしるこもあるしね」

今は秋だ。
ホット販売の缶は、カイロがわりであったかい。
ただ、手のひらが赤くなっちゃうんだけどね。

と思ったら、おしるこを持つ両手を、何かに包まれた。

それは、細くて長い指の――緑間くんの手だ。

「手の甲が冷たくなっている」

「緑間、くん……っ」

距離が少し近くなってる。
リアカーは狭いから――。

「ほ、ほんとに大丈夫……!」

緑間くんを見上げた瞬間――視界のはしを走っていったものが。

「っあ!」

「え?」

「うぉっ!?」

キキィッ

高尾くんが急ブレーキをかけた。
同時に、緑間くんの手も離れる。

「ひよちゃん、どしたの?」

「今、流れ星が……」

三人揃って空を見上げるけれど、いっこうに落ちない。
たまたまだったみたい。

「まー、そうそうタイミングよく落ちて来ねぇか」

「いつまでも待っていても仕方ない。高尾、進むぞ」

「仰せのままー。あ、そだ」

自転車にまたがった高尾くんが振り向いて、言った。

「一人だけ流れ星を見たひよちゃんには、なんかいいことあるかもよ?」

私の、心臓の音が聞こえた。

いいこと、あったよ。

ねぇ、流れ星さん。
こんな素敵な二人が近くにいて、私、どうしたらいいですか?

高尾くんと緑間くんと、一緒にいたからかな?
秋の風が吹いたけど、ちっとも寒くなかった。



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