秀徳夢・他

□お勉強会
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カリカリ……と動かしていたシャーペンを、ひよは止めた。

テスト勉強のために配られたプリントの、上級問題がわからない。
広げた教科書を引き寄せてにらめっこしてみても、だめ。

――清くん……。

心の中で念じつつ、従兄に教えてもらうべく、隣の席の彼を見上げた。




期末考査前のため、部活はない。
普段なら、本好きの常連客しかいないであろう図書室は、今や空いている席はほとんどない。

従兄が授業中のみ眼鏡をかけていると知ったのは、最近のことだ。

どちらかと言えば鋭い眼差しは、レンズを通すことで、理知的な魅力をしたたらせていた。
更には、ノートと向き合えば、おのずと伏し目がちになる。
その目元の影に、決まって胸がざわざわとして、頬を押さえたくなるのだ。

ひよがなかなか声をかけられずにいると、従兄の方から顔を上げてくれた。

「どうした、 ひよ。わかんないとこあったか?」

「――え、あ、うん。ここなんだけど……」

ひよはぱっと顔を戻して、問題の箇所を指差す。

見つめていたことがバレていたのかもしれない。

「あぁ、化学の応用か。これはな……」

幸い、従兄は何も知らないという態度で、教科書をぱらぱらめくり、プリントと照らし合わせる。

ひよはほっとしつつ、彼の解説に集中した。

従兄の説明はとてもうまい。
ひよ がつまずくところを、何故つまずくのかまで理解してくれていて、根本から順序だてて教えてくれる。

おかげで、解決の糸口は見えたのだけれども。

いかんせん、別の問題があった。
ある意味、こちらの方が重大だ。

――ち、近いよ……。

「き、清くんってば……」

我ながら頼りない声だと思うが、必死に訴える。

ひよの左側にいる従兄は、彼女に教えながら、椅子ごとどんどん寄ってきた。
逃げようにも、教科書の活字を辿る彼の指は、ひよの右からのびている。

「ん?なんだ?」

間近で訊いてくる眼鏡ごしの瞳が、笑っている。

――清くんのいじわる。

けれど、それは口には出せない。

「ううん、なんでもないよ……」

「そうか。大丈夫そうか?」

大丈夫、と訊かれたのが問題の理解度のことだと気づいて、 ひよは頷く。

「よし。じゃあこれと、あと一つ例題を解いたら休憩するか」

「え〜っ」

清くんの鬼、とぽそりと漏らせば。

「なんか言ったか、 ひよ ?」

にっこりと、笑顔を向けられた。

「が、頑張ります」

「うし。ちゃんと解けたら、ご褒美やるからな」

ぽんぽん、と頭に何度か手を置かれて、前髪をくしゃりとされる。

従兄との勉強は好き。
優しく教えてもらえて、ご褒美もあって。

それに、素敵な従兄を独り占めできるから。



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