秀徳夢・他

□もうちょっとだから
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「てめーら、何チンタラしてんだ。轢くぞ」

ドスの効いた声に、ふ……っと呼び戻された。

宮地清志――昔からよく構ってもらっていた、頼れる従兄だ。

「きよくん……」

「アレ、ひよ?どうした?」

彼は、後輩の胸に留まっている従妹に気づいて、眉をひそめた。

それに答えたのは本人ではなく、彼女を抱き抱える高尾だ。

「こいつ、熱あるみたいなんすよ。家の人が迎えに来るまで、とりあえず保健室に――」

彼が言い終わるより早く、従兄はさっと彼との間合いをつめ、ひよを掬い上げた。

その一連の動作が、あまりにも滑らかで。
高尾は、腕を不自然に上げたまま、固まることとなった。
もちろん、横に居た緑間も。

「ったく、そういうことはもっと早く言えよ」

怒ったような呆れたような、微妙な表情で、従兄に諫められた。
彼の男っぽい手の甲が、熱を放つ額に当てられる。

「だって……大丈夫だと思ったんだもん……」

大好きな従兄にまで、迷惑をかけちゃいけない。
そう思うのに、つい甘えたくなって、力が抜けてしまう。

「バカ、無理して部活に出られる方が気になるっつの」

言葉遣いは少し荒いけれど、それは心から心配してくれてるから。

「ごめんなさい……」

「ん。わかればよし」

小さい子にするみたいに、頭を撫でられる。
――と、従兄の頭が自分のより下に移動した。

「……きゃっ」

腰を力強い腕に抱えられて、抱き上げられた。

「清くん……っ、おろしてぇ……っ。恥ずかしい……」

「暴れるな。ちゃんと掴まってろ」

足をじたばたさせるけれど、そこはバスケで鍛えた高校生男子。
従兄はそのままの体勢で振り返る。

一緒に振り返ることになった彼女の目に写ったのは。
口をぱっかり開けてこちらを凝視する、同級生二人だった。

「何ぼけっとしてやがる」

「あ……、緑間くん、高尾くん……」

恥ずかしいやら申し訳ないやらで、彼らと目を合わせられない。

「さっさと戻って準備しろ。レギュラーだからって、雑用が免除されるワケじゃねーんだよ。刺すぞ」

――そうだ、今は部活前……!

「清くん、練習の用意――」

「お前は保健室だっつの」

ばっさりと遮断された。

「うぅ……」

「ほら、行くぞ」

従兄が歩き出したから、その首に腕を回した。

まるで、彼の頭部を胸に抱いているような格好。
従兄妹同士で――いけないことを、しているみたい。

「ひよ?顔真っ赤だぞ。つらいか?」

「ううん、大丈夫……」

「もうちょっとだから、頑張れよ」

気遣うように笑いかけてくれた従兄が、ものすごく、格好よくて。
後ろで同級生たちが真っ白になっていたのは、全く見えなかった。



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