秀徳夢・他

□どっち?
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「……よしっ」

キュ、と最後のボトルのキャップを閉めて、マネージャーの仕事の一つ、ドリンク作りが終わった。

高校バスケの名門・秀徳は部員が多い。
当然マネージャーも複数いるわけだが、それぞれが忙しく動いている。
部活前のこの作業も、一人でこなすとなると重労働だ。

小さく息をついて、彼女は額に手を当てた。
ひんやりと心地よく感じるのは、手が冷えているからだけではないのは確かだ。

最初に体の不調に気づいたのは、朝だった。

起きた時、胸のあたりがムカムカした。
けれど、今日は体育もないし、と思って登校して……それが間違いだった。

監督に伝えて、早めに帰らせてもらった方がいいかもしれない。

――とりあえず、ドリンク運ばないと……。

ボトルをぎっしりつめたカゴの持ち手を、両手にそれぞれ持つ。

「よいしょっ」

気合いを入れて持ち上げた、その時。

頭を内側から殴られたような衝撃が襲った。
何も見えなくなって、耳の奥でキン、と鳴る。

「あ……っ」

反動で後ろに倒れ――かけて、温かい壁にぶつかった。

「っと、あぶねー」

なぜだか壁がしゃべって。

「大丈夫かー?」

意識的に呼吸を何度か繰り返して、そっと目線を上に。

そこには、心配そうなつり目が、逆さまにあった。

「高尾、くん……?」

おー、と返事が来た。

すると今度は、前方の、それもかなり高いところからため息が聞こえた。

「これだけの量を一度に持つなど、無茶だろう」

「緑間くん……」

ボトルのカゴは、いつの間にか彼の手に移っていた。
かなり重いのに、軽々持っている。

「あ、ありがと、二人とも……。大丈夫だから……」

「ちょい待ち」

自力で立ち直そうとしたら、後ろの彼に止められた。
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