秀徳夢・他

□先輩でよかったっス
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「笠松先輩って、カノジョ作んないんスか?」

部活の休憩中のこと。

後輩の唐突な発言に、笠松はスポーツドリンクを吹いた。

「なんなんだ、いきなり」

口元をぐいと拭う。

「なんとなくっス。で、どうなんスか? もしくは、気になるヒトとか」

全国区の強豪と言えども、そこは健全な男子高校生。
加えて、熱血漢の代名詞たる主将の色恋事とあって、チームメイトも耳をそばだてる。

それらの視線を、笠松は一睨みで散らせる。

「気になるヤツなんていねーし、作る気もねーな。俺には、このチームを日本一にする責任がある。浮わついてる暇はねーよ」

「えぇ〜。先輩もイケると思うんスけどね〜」

「人の話聞けよ!」

心に秘めた覚悟を吐いたはずが、間延びした返事をされて、笠松はかっと牙を剥いた。

「……んじゃあ、俺のどのへんを見て、そう思うんだよ」

笠松はぐっと眉を寄せた。

自慢じゃないが、異性と話すのはめっぽう苦手だ。
運動能力は問題なく、学業は上々。
だが、容姿はごくごく普通。
特に女性に惹かれる要素があるとも思えない。

「そうっスねー。まず、男らしいとこと……。あと男らしいとこと、男らしいとこと……」

常日頃イケメンぶりを惜しまず撒き散らす後輩・黄瀬は、指折り数えていく。

「……あと、男らしいとこっスかね!」

「全部同じじゃねーか!」

自信満々に言い切った後輩の顔を、笠松は反射的にはたいた。

痛いっスよ〜、なんて、黄瀬は顔をさする。
周りのチームメイトは腹を押さえて震えている。

笠松は唇をへの字にした。
褒め言葉を連発されたことに照れるべきか、それが全て同じだったことに憤るべきなのか。

「けど、笠松先輩って人を一言で表すとしたら、『男らしい』だと思うんスよ。これホント」

黄瀬は膝に頬を乗せ、笠松を見上げる。

「いつだってまっすぐで、バスケは人一倍熱心で。それでいて、ちゃんとみんなのことを見てくれてる」

眩しいものを見ているかのように、黄瀬の目が細められた。

「オレ、高校に入って一番初めにお世話になるキャプテンが、笠松先輩で良かったって、思うんス」

ただただ純粋な敬意の眼差しが、エースから主将に向けられた。

その思いは、他の部員たちも一緒だった。

黄瀬の視線を受け止めていた笠松は、やがて、ぱっと目をそらした。

「ん……まぁ、その……、サンキュ」

スポーツドリンクをごくりと仰ぐ。
そうして、喉を潤してから――。

「つーか、モデルみてーなキメ顔してんじゃねぇ!」

黄瀬の脳天に手刀をお見舞いした。

「痛いっ! 一応モデルっス!」

「うるせー!」

じゃれる二人をよそに、チームメイトたちはぼちぼち腰を上げる。
練習再開だ。

そんな、海常高校男子バスケ部の部活風景。



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