秀徳夢・他

□涼しい季節はホットなおしるこがいい
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今日も今日とて、部活動でくたびれた肢体に鞭打ち、高尾はチャリアカーを引く。
奇異な目で見られることには慣れた。

半年以上も同じことを繰り返していれば、むしろこれがない時の方が、変な気分だ。
たぶん、リアカー部分で好物を啜っている緑間も、同じなのではないかと思う。

高尾は鼻の頭をこする。
少し、冷たかった。

練習の後はしっかり汗の始末をしているが、体調管理に油断のできない季節だ。

こんな時は、温かいものや甘いものなんかが欲しくなる。
そう、たとえば、相棒が今飲んでいる、おしることか。

「なーあ、真ちゃん」

信号待ちに振り返って、じっと見つめてみる。

視線が合い、秀麗な眉が寄った。

「やらんぞ」

「そんなつれないこと言わずに、ひとくちだけ」

緑間の口に運ばれかけたおしるこの缶を、高尾は手を伸ばして頂戴する。

「おい」

少しぬるくなっていたが、優しい甘さが舌を滑り、体にしみていく気すらした。

何かつるりとしたものが舌に当たって、高尾はそれを吸い込む。
餅入りだったのか。

「ほい、サンキュ!」

手元に戻ったおしるこを唇にあてがって、緑間はふと動きを止める。
おしるこの餅がなくなっていることに気付いたか、じろりと睨んできた。

「わり、つい食っちゃったんだって。そのかわり、ジャンケンなしでいいからさ」

「ジャンケンしても、結果は同じだ。それでは交換条件にならん」

仕方ないから、次に見つけたコンビニか自販機で買ってやろう。
なかなか見つけられない夏と違って、置いてあるところも増えただろう。

高尾はペダルに足をかけ、ぐっと踏み込む。

この偏屈な相棒と、たかがおしるこの餅くらいで、ああだこうだ言い合うなんて。

入部した頃だったら、いくら自分でも他人の飲み物を奪うなんてしない。
緑間にしたって、視線に気付いたりしなかったろうし、気付いたとしても、不快そうに一蹴するだけだ。

相棒と呼べるくらいまでは、同じ時間を過ごしてきたということだ。

重いペダルにも慣れた。

“あたたか〜い”おしるこを見つけたら、二本買うのもいい。



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