短編

□貴方のために我が剣を
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「やぁ、静蘭じゃないか」



回廊を歩いていた静蘭は名前を呼ばれて、反射的に声のする方を見た。すると、庭院に爽やかな笑みを浮かべた楸瑛が立っていた。


こういう時の楸瑛とはあまり関わりたくない。静蘭は一瞬あからさまに嫌そうな顔をした。



「どうされたんですか?藍将軍…」



しかし、すぐにいつもの愛想の良い笑顔になって、にっこりと微笑んだ。

その作られた笑顔に楸瑛もハハハと不自然な笑みになる。



「君、私のこと嫌いだろう?」

「そんなことはありませんよ。我が家の家計を助けて下さる親切な方を嫌うなど……とんでもありません」



楸瑛の笑顔がヒクヒクと引きつる。

先程の静蘭の言葉はよくよく考えてみれば、暗に自分は“ただのお財布”だと言われているような気がした。


楸瑛はガクリと肩を落とすのと同時に、元公子様の笑顔の裏の裏の表を読むことは、案外簡単なのかもしれないと思った。

以前はそれが一流と二流の岐れ目だと言われていたようだが、静蘭は秀麗と邵可と劉輝以外には分かりやすい程に黒い部分を出してくる。



「では、私はこれで…」

「ちょって待ちなよ、静蘭……」



さらっと言って、立ち去ろうとする静蘭を楸瑛は慌てて引き止める。楸瑛に肩を掴まれた静蘭は、いかにも早くこの場から立ち去りたいというオーラをかもし出して、ジロリと見た。








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