長編
□兄弟は手足たり
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初老の男は近くにあった卓子に思いっきり拳をぶつけ、遠くを見やりながら昔の記憶に耽っていた。
まだ男が朝廷に出仕していた頃の記憶を。
「奴が流罪になったと聞いた時は清々したわ…」
「その清苑公子が生きているとしたら?」
「何ッ!?」
初老の男は息子の言葉に目を大きく見開いて驚きを隠せなかった。
清苑公子と言えば、流罪になってから生きているか死んでいるかも分からず、行方不明のはずだ。
「しかも…この貴陽にいるとしたら?」
「本当に本人なのか?」
「高い確率で…」
息子の真剣な眼差しに思わず武者震いした。息子の考えを瞬時に察した。
息子は本気だ。
いつの間にこのような大それた事を考えるようになったのか。
自然と笑いが溢れる。
「ハハハハハ……これは面白い。お前の考えが分かったぞ。しかし相手は手強い…我等に果たせるものか?」
「ここで我が家の力を使わずしてどうするのです?」
息子が何かを企むようなその表情は月光のせいかさらに不気味な笑みだった。
初老の男も息子の案に静かに同意した。
「ククク……それもそうだ。我が家の行く末を賭けた一世一代の勝負だ」
二人は窓の外をじっと見据えた。王宮のあるその方向を。
そして貴陽の夜は静かに更けていった。
⇒序章・完