長編

□兄弟は手足たり
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貴陽の郊外、昔はきらびやかに繁栄していただろう邸が今は廃れた姿で佇んでいた。


先王陛下の御代で数多くの名家が没落に追い込まれたため、以前ほどの勢力もなくなり、ひっそりと暮らす貴族達は多い。



「父上…私はもうこのような生活は嫌です。昔のように我が家ももう一度…」

「しかし…我が家は名家と言われていた頃も下位だったわけだから」



薄暗い室の中で月明かりの下、二人の男が話していた。

一人は初老の男、もう一人はその男の息子であろう…三十代ぐらいの男だった。



「父上は悔しくは無いのですか!!先王陛下の御代では陰で我が家は多大な功績を残してきたのですよ」

「分かっている…私だって今まで惨めな日々を送ってきたのだ」



息子の煽りに初老も怒りが沸々と沸き上がってきたようで、憎悪を露にした。



「そこまで言うのなら何か考えがあってのことだろうな?」



見るからに機嫌が悪くなった男は爛々と不気味に光る瞳で睨みつけた。

息子は待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑んだ。



「つい最近、とても興味深いことを耳にしましてね…」

「興味深いことだと?何だ?」



もったいぶって焦らす息子に苛々が募る。そんな父親を満足そうに一瞥すると漸く口を開いた。



「彩雲国第二公子…清苑公子を覚えておいでですか?」

「ふんっ…忘れるわけが無かろう。この私に一生の恥をかかせた上にあの男のせいで我が家は没落したも同然だ」








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