長編
□兄弟は手足たり
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序章月下
劉輝が玉座につくずっと昔…私がまだ清苑公子と呼ばれていた頃…
まだ幼かった劉輝は毎夜私の室を訪ねてきた。
『あにうえ〜』
『どうしたんだ?眠れないのか?』
私は毎夜、幼い弟を優しく寝台に迎え入れた。劉輝は寝台の上に上がり、私に抱きついた。
『闇の中で一人は嫌いです…でも、兄上がいれば…』
『そうか…』
私は静かに劉輝の頭を撫でた。劉輝は気持ち良さそうに微笑んだ。そんな劉輝が愛しいと思った。
『兄上?もし兄上が王になられても、なられなくても…ずっと…ずっとお側にいても良いですか?』
私は突然、自分を見上げて真剣な眼差しで訴えてくる弟に驚いた。
今の弟の心の拠は自分なのだと実感した。
弟を支えるのは自分…自分を支えるのは弟。私にとっても劉輝は大切な存在だった。
『あぁ、もちろんだよ』
『兄上だけ…兄上さえいて下されば、それだけで私は…』
私の言葉に安心したのか、最後まで言い終える前に劉輝は眠ってしまった。
清苑はふと窓の方を見上げて夜空に浮かぶ月を見た。
『このまま変わらなければ良いのだが…』
静蘭はハッと目を覚ました。自分の目元が濡れていることに気づく。
窓の外を見上げてみれば、そこには変わらず月が出ていた。
「懐かしい夢を見たな…」
静蘭は着物の袖で汗を拭う。何も言わずに別れた弟のことを忘れた時は無い。常に彼の幸せを願った。
「月はあの時と変わらないのに…私たちの立場は変わってしまったな…劉輝…」
静蘭は窓の外を眺めながらポツリと呟いた。
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