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□遅れてやって来た彼らの白くて赤い日
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「シズちゃんの大馬鹿野郎っ!」
唐突にやって来た臨也は俺にそう言うと半べそかきながら逃げるように去って行った。
……俺、何かしたか?
生憎半べそかきながら大馬鹿野郎なんて言われる原因はまったく思いつかない。
しかも逃げやがったから話を聞くことも出来ねぇ。
なんなんだアイツ…。
「あーイライラする!クソ、何しても俺をイラつかせやがって…!」
一発ブン殴ってやろうかと臨也のマンションへ向かうべく駅へ足を向けると誰かにジッと見られている様な感覚がした。
「この路地裏…か?」
人一人通れるくらいの、怪しいモンに繋がっていそうな気がしてならない道。暗がりを睨む様にしていると、少し離れた物陰から誰かが飛び出して奥へと駆けて行った。
「テメェか、ガンつけてきたのは…!」
反射的に駆け出して、逃げて行ったヤツを追い掛ける。
行き着いた先は行き止まり。けどそこには見慣れた黒コートがしゃがみこんでいた。
「臨也…。」
名前を呼ぶとビクリと肩を震わせる。
「来るな、よ!シズちゃんなんか大嫌い!」
「俺は元々嫌いだ。」
「じゃあ来るな見るな帰れ!」
「テメェに大馬鹿野郎なんて言われる筋合いはねぇんだよ。だからブン殴らせろ。」
「うるさいうるさい!シズちゃんなんか大馬鹿野郎で充分だ!顔はいいからさぞかしモテるんだろ!どうせ俺のことなんかこれっぽっちも考えてくれないんだ…!」
なんだこりゃ。幻聴か?昨日は呑んだ記憶ねぇしな…。
つーか臨也が泣きそうな顔で俺を睨んでるとか幻覚まで混じってやがる。こいつは重症だな。
「ホワイトデー、楽しみにしてたのに…っ」
どうやら幻聴でも幻覚でもなさそうだった。
え、てかホワイトデー?ホワイトデー…って、
「何だ?ホワイトデーって。」
「バレンタインのお返しする日でしょ!知らなかったなんて、信じられない…!」
絶望的な目で見てくる臨也。バレンタインは確かに知ってる。
1ヶ月くらい前にこの目の前にいる男がチョコケーキを持って来て、チョコプレイ!とか訳の分からないことを言って襲いかかって来たから要望に応えてコイツの体中にチョコを塗りたくってやったから記憶に新しいしな。
「ちょうだいよ、お返し!」
「お返し…って、あれに対するお返しって何だよ。」
むしろあれはもらったんだか俺がやったんだかわかったモンじゃねぇ。
「………してよ。」
「あ?」
「し、シズちゃんから、キスしてよっ」
何故そこで言った張本人が照れるのかはまったくわからないが、思い返せばいつも臨也からしかしてないような気がする。
抱き締めるにしろキスにしろセックスにしろ全部コイツからだ。
そもそも俺は臨也と恋人じゃねぇし、なんとなく流されてこうなってる気がする。
最近は理屈を捏ねくり回さなくなって来たから出会い頭に殴ることもなくなった、と思えばよくわからない内に勝手に臨也は俺の家に上がってくる様になり、いつの間にか殺したいくらいに嫌いだったコイツとこんな関係になっていた。
「ねぇ、シズちゃん…!こんな中途半端な関係もう嫌だ!」
「臨也…?」
「俺は、シズちゃんが好きなんだよ…っ」
「っ、」
「シズちゃんからキスしてくれたら俺はもう諦める。これで終わりにする。またシズちゃんに嫌われるために理屈っぽくするし、シズちゃんは今まであったことを綺麗さっぱり忘れてくれて構わない。」
臨也の言葉に何故か胸が苦しくなった。
「シズちゃん、最後…だよ。終わりにしよう?シズちゃんにとって俺なんてその程度のものだってわかって…るからっ」
うつむいた臨也の足元の地面がぽたぽたと濡れる。
泣かせた。臨也を、俺が。
「わかってんなら、泣いてんなよ。」
気づいたら俺は臨也の腕を取って俺より10センチ近く小さい臨也を引き寄せて抱き締めていた。
俺、コイツが好きなのか。