The Dollish Cry

□第一話
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「大宮!」

「……はい」


美弥子はしばしばと瞬いた。霞む目を擦る。
机に伏せていた顔を上げると、担任でもある数学教師が眉をしかめていた。
しかしその口元はほころんでいる。


「大宮美弥子。今日で何度目だ?」

「はい。四度目ですか」

「そうだな。良く覚えている」


くすくす。
悪意の無い忍び笑いが湧く。
さして気にせず美弥子は教師の言葉を待った。


「全く、授業の頭から懲りない奴だ。一体昨日の晩は何時に寝た?」

「そうですね……四時頃だったかと」

「おいおい……朝じゃあないか。そんな時間まで一体何をしていた」

「……うちの犬が」

「犬?」

「見境なく何でも喰らうので、調教を」

「四時までか?」

「はい。真夜中前から」

「ほほーう。俺は犬が好きなんだ。何て名前だ? 犬種は?」


明らかな作り話に、担任は身を乗り出して乗ってくる。
美弥子も表情を変えぬまま続ける。
そう、いつものこと。


「名前はユリウスです。何かの混血種のはずです」

「ほーう、ユリウスか。カエサルからか?」

「いえ、存じ上げません。入手時にはその名前でしたので」

「ふむむ。一度会ってみたいな」

「凶暴なので止めた方が良いですよ」


そう言いながら美弥子は欠伸を漏らす。
今話しているのが作り話とはいえ、あまり寝ていないのは事実だ。
しかも不本意。

美弥子とて人並みの睡眠が必要なのだ。
昼までは耐えてきたが、そろそろ辛い。

そう思いながら時計を見れば、あと数分で授業が終了するようだった。
この時間で一日の授業も完了する。
あと少しの辛抱だ、と自らを戒める。


「先生、もう時間が少ないです。授業を進めてはどうですか」

「お、そうだな。ならこの問題は大宮に解いてもらおう」


大半の者は喜ばない指名であるが、今は丁度良い眠気覚ましにもなりそうだ。
美弥子は席を立ち黒板の前に立つ。
既に記されている式を難無く解き、溜め息とともに席へ戻った。

美弥子の解法には教師による解説が付けられ、やがて隅に赤丸が描かれた。
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