★★★

□キャンドルの火を消して
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街中に鳴り響くジングル。
ライトアップされた駅前通り、待ち合わせの時刻まではまだ少し余裕があった。
吐き出した白い息が消えてゆくのを目で追えば、見上げた空には満天の星が瞬いて、聖なる夜に相応しい光を放っていた。
時刻は間も無く午後7時を指そうかと言う所。



「メリークリスマス!!!」

「うわっ!」



駅前通りの時計の鐘が鳴ったのと、ほぼ同時。
もたれていた柱の影からいきなり飛び出してきたピンクの頭に思わず驚きの声を上げる。
待ち合わせに遅刻はしなかったものの、歳上とは思えない無邪気さにはいつも驚かされてばかりだ。
(そういう所も嫌いじゃないですけど、)



「メリークリスマスです、綱海さん」

「おぉ、わりぃな。待たせたか?」

気を取り直して返事をすれば、真っ赤な鼻をつつかれる。
待ったと言うほども待たされた感覚は無かったけれど、時間にしてみれば20分くらいは此処に居ただろうか。
隠しきれなかった鼻っ柱を両手で覆いながら、全然平気ですと笑い返した。


「それより、早く行かないとお店閉まっちゃいますよ」

「タイムセール狙いなら丁度良いくらいだろ」

「ケーキ屋さんはどうします?」

「んー…まぁ予約はしてあるし、最後だな」


キラキラと賑やかな駅前通りを掻き分け、商店街へと足を進める。
今日は12月24日クリスマスイブ。
どこの店も混むだろうからと、俺達はスーパーで軽く材料を買い込み、綱海さんの住むアパートに向かった。
今夜は熱々のお鍋と、ちょっとだけ奮発したホールケーキが食卓に並ぶ。
世間一般のクリスマスイブとは僅かにズレたメニューかもしれないけれど、綱海さんと過ごせるなら俺にとっては凄く幸せなクリスマスである事だけは確かだ。


「…本当に、ホールケーキで良かったんですか?」


二人しか居ないのに、と両手で持ち上げたケーキの箱を覗き込みながら問う。

「なぁに、残ったら明日の朝にでも食えば良いじゃねぇか」

傍らの綱海さんは、そんなこと海の大きさに比べたら、なんて、お決まりのフレーズを機嫌良さそうに並べた。

そうこうしているうちに見えてきた小さな赤い屋根に、俺は僅かに歩調を早める。
この春から都内の高校へ進学が決まった綱海さんが、一足早く引っ越してきたこのアパートに俺が来るのは3回目。
買い込んだ鍋の材料の所為で両手が塞がっている家主の代わりに、勝手知ったると言わんばかりに部屋の鍵を開けた俺は、綱海さんのズボンのポケットへ鍵を返すないなや、早々にケーキを冷蔵庫へと詰め込んだ。
(お楽しみは最後!)


「じゃあ、早速作りましょうか」

「作るってほどの物も無いし、こっちで準備したら向こうで煮れば問題無いだろ。勇気はコタツでぬくぬくしてな」


ついでにこれも頼むと渡されたのはカセットコンロ。
そのまま奥の部屋のコタツに促されて俺は僅かに唇を尖らせた。
(確かに俺が包丁握ると野菜はみじん切りにしかなりませんけどっ!)
今日くらいは手伝わせて欲しかったと駄々をこねれば、じゃあケーキカットはお前に任せると返ってきた言葉に満足してコタツのスイッチを入れた。








――――――――――






「ご馳走様でした、凄く美味しかったです…!」

「色々突っ込んで煮ただけだけどな、お粗末さまでした」

「いやいや、魚の出汁とツミレが絶品でしたっ」

「お前さんに喜んで貰えたなら俺も嬉しいさ」


綱海さんが作ってくれたツミレ鍋は本当に絶品で、食後のケーキの事をすっかり忘れて食べ過ぎてしまった程だった。
鍋やら食器やらを片付けはじめた綱海さんに習い、カセットコンロを仕舞ったら待ちに待ったケーキの御目見え。


「ケーキカットは俺がやっても良いんですよね!」


目を輝かせながら綱海さんを見上げると、その前に忘れ物、と思い出したように席を立った背中を見詰める。
(…忘れ物って何だろう?)
ケーキを切るための包丁だろうか、そう言えば取り分けるお皿も見当たらないと、ぐるぐる考えて居たのもつかの間。

「お待たせ」

戻ってきた綱海さんが手に持って居たのはお皿と、そしてもうひとつ。




「――――キャンドル…?」


「そ。やっぱこう言うのは雰囲気出してかねーとな!」

俺の向かいの席に腰を下ろした綱海さんが、楽しそうにケーキに小振りのキャンドルを指していくのを静かに見守る。
(ケーキにロウソク立てるのって誕生日じゃなかったっけ?)
脳裏に浮かんだ疑問にすぐさま蓋をして、目の前の彼が楽しそうなら別に良いやと口許を緩めた。



「よーし、点火完了!」

「せっかくですから電気も消します?」

「もちろん」


カチリと部屋の電気のスイッチが消され、キャンドルの灯りにぼんやりと照らされた室内はどことなくロマンチックで。
(確かに、綺麗だ)
電気を消すために席を立った綱海さんは、てっきりさっきと同じ向かい側の席に座ると思いきや、俺のすぐ隣にしゃがみこんだ。


「一緒に吹き消そうぜ?」


アレ、と指さされたのはもちろんキャンドル。
(そっか、吹き消すために隣に来たのか)
煌々と燃えるキャンドルを見詰めながら、時々酷く子供っぽい彼の言動に笑ってしまった。


「何でそこで笑うんだよ…」

「すみませ…あはは、ちょっと、ツボに入っちゃって…!」


綱海さんって時々凄く可愛いですよね!と付け加えれば、お前程じゃねぇよとカウンターを食らって息を呑んだ。


「ほら、やるぞ?」

「わかりましたよ、じゃあ、いち、にの、さんで」

「りょーかい」



薄暗い部屋、輝く橙の光に向かって揃って息を合わせる。


「「いち、にの、」」




さん。



綺麗にパチパチと揺らめいて消えたキャンドルの灯りは、差し詰め瞬く夜空の星のようだった。
途端に真っ暗で心細くなった部屋、不意にトントンと叩かれた肩に呼ばれた名前。



「勇気、」



「何ですか、綱海さ、………んんっ!?」


安堵して顔を向けたその、瞬間。
無防備さを狙ったように唇に重ねられた柔らかな感触、呼吸すらも奪うかのような口付けに、ただ誘われるままに薄く唇を開いた。



「………、っ…いきなり、なに、するんです」

「俺的にはデザートに、ケーキよりお前が食べたいなぁ、なんて思ってるわけだ」


にこり、と。
いくら暗闇でも、これだけ距離が近ければどんな顔をしているかくらいわかる。
初めからこれが魂胆かと、今更ながらにキャンドルサービスに感激した自分を叱咤した。


「デザートって…、最近綱海さん、言う事が親父臭くなってません?」

「まぁまぁそう言うなよ。そんな俺も――――」




好きだろ?

なんて、近距離から囁かれた殺し文句。
逆らえる筈なんて無いし、夕食で十分お腹一杯だった今の俺にはケーキはそこまで重要では無くて。



「…好きなんですよね、残念ながら」

「一言余計だろ」

「照れ隠しですよ」

「なら良いか」



お互いに笑い合いながら、もう一度と、深く唇を合わせた。









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聖なる夜を貴方と共に。












**(君と宇宙へ逃亡)様へ寄稿させて頂きました^^*


**使用させて頂いたお題

31.キャンドルの火を消して



**アトガキ**

素敵なクリスマス企画様に便乗しまし、た!
こういう機会を活かして、ちょっとでも綱立布教!←しつこい
ゆうきゃんが料理下手だとか、つなみんが料理上手いとか完全捏造にもほどがあるwww
どっちにしろこのまま年越しまでしかねない勢いです。よし、年越しネタは設定このままでいこう←←

少しでも綱海さんと立向居くんの組み合わせって良いなって思ってもらえたら私にとって最高のクリスマスプレゼントです^///^←

読んでくださって有難う御座いました^^!
そして限りなくフライングすぎるクリスマスにはつっこまないでやってくれww(※現時点で11月25日です←)

0.99999999999@なな


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