ているず

□星の行く末
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星がいくつかながれたら

ぼくをよんで

星のひかりにまぎれたぼくをみつけだして





静かな時間が流れる。
決して良いものではなかった。安心できる静寂でも、眠れる静寂でもない。普段五月蝿いだけの人間が少し黙るだけでこうも違和感があるのかと、ヒスイは困った。
群青の髪を持つ男は、哀しげにそして心配そうに栗色を見た。
「父が亡くなり…彼が来て、まだ私達の戦いは終わっていないんでしょう」
ヒスイ達はこの世界だけでなく、頭上に広がる白磁の世界をも救った。全てのスピリアの輝きを取り戻した一番の英雄のスピリアが、輝かなくなってしまったのだ。
かつて、ねむり姫の姉がスピリアを繋げる道具として創り上げたソーマも、やっと眠らせることが出来ると安心したのは束の間だった。
「お兄ちゃん、わたし達でシングにスピルリンクしてみよう?」
「それが…一番いいのではないでしょうか」
「シングのスピリアに入れば、何かわかるかもしれない」
ヒスイは頷いた。ソーマを持つ者にしか、出来ないこと。
虚ろな瞳で、窓の外を見るシングに、ヒスイは話しかけた。
「シング、お前のスピリアに入るぜ」
肯定もなかったが、否定もなかった。嫌だという感情も、今のシングには見られない。
仲間のスピリアに入ったことはない。ヒスイの拳に力が入った。
それぞれのソーマが光を放ち、ヒスイとコハクを包む。眩しさに目を閉じた後、テクタの瞳に映ったのはただ無表情なシングの顔だけ。
シングがふと顔を上げて、扉からかつての仲間。



「なんだよオイ…!」
シングのスピリアの中。ヒスイとコハクは驚愕した。
「白化してるみたい………」
白磁に輝く月の世界のように、シングのスピリアの中は真っ白だった。きらきら光る白い雪に包まれるノークインとは違い、鳥肌さえ立つような白さ。
「とにかく、進むぞ」
魔物もゼロムもいない。無音の世界に、白い花に白い結晶。ヒスイとコハクだけが、黒い夜空に光る星のように目立っていた。
変わりのない道を、延々と歩いて行く。
「お兄ちゃん、あれ…」
コハクが指差した先に、少しだけ変化があった。消えかかりそうな華奢な身体。真っ白な世界に囲まれて、栗色が薄くさえ見える。
「シング…!」
スピリアの中の、シング。
久しぶりに会った時のように真っ白な空を見上げていた。走って近付いていくと、シングが気付いたように視線を下げた。
シングがいる。
スピルーンがないのに?今までスピリアの中で出会ってきた人は、スピルーンを投影したようなものだった。ヒスイに少しの疑問が生まれる。
「シングっ」
コハクがシングの名を叫ぶと、シングの瞳に光が灯る。ゆっくりと口が開くのを、コハクはただ見ていた。
「何故、来た」
シングの口が動いたのを久しぶりに見た。
しかし、シングから発せられた言葉は、余りにもシングに似つかわしくなく。ヒスイが眉をひそめる。
「お前…」
「踏み込んではならぬ場所であったのに…これも運命か」
笑いもしない、全く表情を変えない、感情が“白化”したようなシングに、ヒスイはまた一歩近付く。
「テメェ…誰だ?」
コハクは兄の顔を見た。睨むような表情に、ソーマを握る手に力が籠る。
「貴様が探しているシングはここにはいない」
「!テメェ…っ」
「しかし私もシングだ。スピルーンを失った彼の、スピリアの残滓」
そして初めて、シング――シングのスピリアが、笑った。
「もうこの者を戻すことは不可能だ。ジルコニアと違って、奴はスピルーンを自ら壊してしまったのだからな」
「シングが!?」
くくく、と1つ笑いを収めたあと、再びシングの形をしたモノは黙りこみ、ふっと消えてしまった。白化したような世界に溶けて、見えない。
ヒスイが悔しそうに舌打ちをする。アイツの笑顔はあんなのじゃなかった。明るくて、憎たらしくて、ムカついて、でもこっちまで笑ってしまう。記憶の彼方に消えてしまいそうな笑顔が、ヒスイの脳内にちらつく。
「お兄ちゃん、スピルーンの欠片をシングに戻してみよう?」
「あぁ」
コハクが取り出した、翡翠の欠片。シーブルの海岸で見つけたものだ。多分、この欠片はシングのものだということが予想がついている。
普通ならこの場に置くだけでいいもの。本来なら外から渡しても構わない。コハクがそっと、白化したような床に翡翠を置いた。

「っ」

バチン、と大きな音を立てて、翡翠の結晶は跳ねた。まるでスピリアの中がこのスピルーンを拒否するように。
「一体どういう、!」
ヒスイが拒絶に驚いた瞬間、白の世界は大きく揺れて、ヒスイとコハクの立つ足場が崩れ始めた。
「くそ、リンクアウトしねぇとッ」
「お兄ちゃん、欠片が…!」
「構わねぇ、コイツのだ!!」
白く発光した自分の体にコハクは目を瞑った。
ヒスイが次に目を開けた時、変わらぬシングの無表情が見えて、叫び出したくなる衝動を抑えて。



*

色々知識不足ですんません…orz












































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