ているず

□星の行く末
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『寝ていない!?もう、何日もですか!?』
テクタの声が耳に響く。しかし、目が開かなかった。
『どうして…』
『いつソーマリンクが出来るようになるかわからないから、と…』
『お兄ちゃん…私がこうなった時も、こうして寝てなかったんだけど……倒れはしなかっのに』
『寝不足とスピリアの疲れ…かしら?相当ストレスだったようね』
そこで、ヒスイは自分が倒れたのだと理解した。今まで溺れて倒れたことは何度かあったが、寝不足で倒れたことなどない。気恥ずかしさでヒスイは自分にイライラした。
『傍にいてやれ』
コハク辺りに頼んだのかとヒスイは思った。
『…――シング』





がばっ、という擬音が似合いそうな行動。
「シング!?」
突然起き上がったヒスイにシングは驚くことはなかった。瞳はまだ輝くことはなく、ヒスイはそれに慣れてしまっていた。
「……シング…」
出て行こうとしたシングの腕を掴む。細さは前と変わっていない。
拍子でヒスイの方に振り向いたシングを、ヒスイは抱き締めた。
「…」
まだ旅をしていた頃、抱き締めた時は嫌だとか苦しいだとか文句を言いながら、笑顔でいた。

『ヒスイ…なんか変な匂いする』
『あァ?……酒か』
『お酒ぇ?!飲んじゃダメだろまだ!』
『バレやしねぇよ』
『ダメなもんはダメ!これから飲んだらオレに近付くな!』

あの後また喧嘩したんだっけか。
ヒスイは苦笑した。あの頃が懐かしい、俺の想像ではノークインでそんな生活をするつもりだったのに今は何をしてるんだろう、と。
無表情なままのシングがヒスイを見下ろす。話し出す前に息を小さく吸う癖が、ヒスイの記憶を乱した。
「……カルセドニーが、ヒスイが起きたら呼びに来いって…」
「…おぅ」
頼まれたことだけを、自分の意思をあまり見せずに行動するシング。
すんなりと放した腕を振り返りもせずに、シングはヒスイの許を離れた。ヒスイが少しの寂しさを感じる。
ベッドから起き上がって見えた陽光が、あまりに白すぎて目を反らす。その白さに鳥肌は立たなくとも、何かが連想されてしまうから。
扉から、黄金が見えた。
「起きたか」
「…カルセドニー」
「妹君に心配をかけるなと言っただろう。いつから寝ていないんだ、何度も寝ろと言っただろうに」
それまでシングが座っていただろう椅子に腰掛けて、カルセドニーはつらつらと小言を。彼が心配性だということはヒスイも承知済みだ。ヒスイは苦笑した。
「…悪い」
「シングがあの状態で、貴方まで倒れられたら…こちらとしてはどうしようもない。気を付けてくれ」
あぁ、と短く了承して。
腕を組んでいたカルセドニーはとりあえず小言を言い終わった後に一度溜息を吐いた。
「これからのことを話したいんだが」
「…あぁ」
「あのスピルーンは…どうやらメテオライトのもののようだが」
ヒスイは頷いた。シングのスピリアの中で、シングのものだと思われるスピルーンの欠片は拒否反応を起こした。それでも、握ったあの翡翠はシングのものだとヒスイは感じていた。
「ローレンツ少佐とも話したが、スピルーンの欠片を探しに行った方がいいかもしれない。とりあえず彼の行方はわかったのだから、…このまま奴をあのままにしておくわけにはいくまい」
「じゃあどうするつもりだ」
「それは貴方はもう決めているのだろう?」
カルセドニーが口端を上げた。
カルセドニーやイネスも同じ考えだったようで、ヒスイは安心する。
「…シングのスピルーンを探しに行く」
「あぁ。」
「そんで、その途中でこうなった状況もシングなり誰なり説明させて、理由も探さねぇとな」
カルセドニーが頷く。
「まずどこから、というのは相談して決めようと思う。俺だけじゃわかんねぇし、シングにも聞いてみねぇと」
「僕もそう思う」
では用意ができたら来い、と一言だけ付け加えて。
カルセドニーが出ていくと、ヒスイは何故か震えている手を見下ろした。
怖かった。
ガルデニアにおいてのクリードとの最後の決戦と同じくらい、怖かった。コハクのスピルーンを取り戻すためにシーブルから旅に出た時は目印もあって、絶対に取り戻すという自信も可能性も多くあった。
それが今回は、――ない。
絶対的に、情報も可能性も少なすぎた。ヒスイが持てるのは願いと、願いから生まれる希望のみだった。
震える拳を強く握る。
目を閉じて、シングの笑顔を思う。明るくて、ヒスイが一番好きな笑顔。その笑顔をずっと見ていたくて、ノークインに来ないかと言ったはず。
その笑顔だけが、ヒスイの唯一の希望だった。











「ヒスイ…」
寝返りを打って、申し訳なさそうに名を呼んだシング。
帝都の宿屋のベッドは広い。さすが、国一番の街だと思う。
「…どうした」
「今日も、いい?」
黒いインナーだけで至極寂しそうに立つ姿に、ヒスイは小さく笑った。
「仕方ねぇな。寝相悪くすんなよ」
明るく頷いたシング。もそもそとヒスイの布団に入り込んで、目を閉じる。
いつからか、シングが一人で寝られなくなった。寝られなくなった、というより寝たくなくなったようだというべきか。野宿をして、小さなテントにくっついて寝る時や、外でみんなと寝る時は大丈夫だったが、宿屋で一人で寝る時だけは、ダメだった。
初めてこう言ってきた日は怖い夢を見たと言っただけで、ヒスイはその夢の内容を知らない。その後もシングが話すことはなく、ヒスイも聞くことはなかった。
それから、ヒスイはシングと一緒に寝るようになった。ただ、今日だけはヒスイにも疑問が消えなくて。
「なぁシング」
「ん?」
「夢って、何の夢を見るんだ」
びく、とシングの肩が跳ねる。
「真っ白な…」
「………あぁ」
「真っ白い、夢、」

真っ白な、夢。
自分も真っ白になって、目が醒める。

ヒスイは目を開いた。















グダってしまいました(´・ω・`)


























































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