ているず

□星の行く末
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自分の妹ながら、美人に育ったもんだ、と思う。
ヒスイと同じ黒髪を揺らし、彼女のソーマ・エルロンドを手に。
「お兄ちゃん!」
たった数ヶ月会わないまでも、英雄として世界を走り回っているコハクは、兄の目からも確実に成長していた。
「大丈夫だったか」
「大丈夫だよ。カルセドニー、ごめんね」
英雄と崇められ、彼や他の結晶騎士にはできないことをしているコハクに、カルセドニーは立場上頭が上がらない。コハクがプランスールで落ち合うことになっていたのも、彼女のやりたいことを優先したからだった。
「もう、いいのか?」
「とりあえず一段落はしているの。本当は私が勝手にずっと走り回ってただけ」
不可抗力にも、コハクは先の騒乱が自分にも理由があると考えていた。今まで世界を飛び回っていたのだから、いきなり静かにしろと言われても、彼女にとっては無理な話だった。
「…コハク」
「シングと、リンクできた?」
ヒスイは悔しそうに首を横に振った。
「そっか…あのね、お兄ちゃん」
コハクが取り出したのは、小さな赤い欠片。これも、旅の中で捜し回ったものと似たものだった。
「デスピル病にかかってた人の中に紛れ込んでた欠片なの。その人のスピルーンにはあんまり影響はなかったみたいだけど…この間、流星群があった時に紛れ込んだみたい」
「私の持つものと同じだな」
ヒスイたちは、このスピルーンの持ち主も捜さねばならなかった。本来、カルセドニーはそのためにノークインからヒスイを連れ出したのだ。
しかし、先頭切って進んでいたシングがいれば頼りになることは確かであり、何よりもこのような事態に彼がいないことが、ヒスイ達にとっては不自然だった。少し前まで、旅の中心にいたのはシングだ。
「メテオライトの居場所を捜しつつ、スピルーンの持ち主を捜そう。」
カルセドニーの提案が最良だった。
「コハク、まだ行ってねぇ場所ってあるのか?」
「ベリルの故郷、ブランジュとノークイン、あとレーブ…かな」
「レーブ…」
霧の村、の通り名のある通り、霧深く明るくはない土地。かつてクリードに精神を取られ、その後遺症が遺る前皇帝と、その息子が住む街。
「とりあえず、ブランジュに行こうかな、って思ってたところなの。久しぶりにベリルにも会いたいしね」
「彼女も今では貴重なソーマ使いだ、行って損はないだろう」
コハクが使うリアンハイト――かつてはカルセドニーの相棒だったソーマは、帝都から雲上の村へと飛び立った。






南の大陸には、定期船も少なく人通りもない。
大陸唯一の村、レーブに訪れる人自体が少ないからだろう。
「………」
無言でその港を歩く若者が一人。
栗色の髪は依然と、しかし同じ色の瞳だけが虚ろであった。この状態が、“心”が欠けている状態だと知る者は少ない。
虚ろな瞳のせいで、彼がこの世界の英雄であることに気付く者は誰もいなかった。かの英雄は、琥珀のように瞳をキラキラと輝かせていたから。
フラフラと、しかししっかりとした足取りで歩く若者に、気付く人物が一人。
「君は…!」
群青の髪は、17年前と変わらないのだろう。
若者が探していたのはその人だった。






「コハクー!?ヒスイー!?」
金色の髪を持つ未来の大巨匠。ベリルは、彼女の師匠であるアラゴとともに、山頂にいた。
ベリルが気にしていたその童顔と身長は変わることなく、帽子であったソーマは彼女の家のコレクションの中の一部となっていた。
「…って本当は驚きたいところなんだけどね、来るんじゃないかって思ってたんだ、ボク」
皮肉屋の彼女、照れ隠しかと思われたが、そうではないことは旅をしてきてわかっていることである。
「ボクの予想では、一人足りないんだけど?」
「意外と勘が良いじゃねーか」
シング。
実は彼女がシングに恋をしていたことを、ヒスイは知っている。同い年であり、ヒスイはシングやコハクと違って人の動向に鈍感ではない。しかし、彼女がヒスイとシングが晴れて恋仲になったとき、喜んでくれたのは事実だった。
その大切なシングはどうしたのさ、とベリルは言いたいのだろう。
口下手なヒスイではなく、カルセドニーがベリルに説明した。
「…なんか、変わったことはなかったか?」
「ない、って言いたいところなんだよね。ほら、ボクだって一応色々と忙しいから」
ベリルが字は下手でも、絵は上手いことは旅の仲間には知られている。英雄だから、という理由でなく彼女の絵が気に入ったと買い取る人も多く、公にはされていないが皇帝――パライバは彼女のファンなのである。
だからこそ、画家としての修行も忙しい。
「でもねぇ、ブランジュってこの世界で一番高い所にあるから、ま、色々見えちゃうんだ」
「見えるって?」
「この間の流星群。あれ、星と混ざって違うものも降ったのさ」
アラゴから渡された輝き。
「スピルーン…」
「この村のものじゃないよ。だって、」
暗く光るその石を、ベリルは強く握った。

「…シーブルから、飛んできたのが見えたのさ」

くそ、とカルセドニーとコハクの後ろでヒスイが舌打ちをした。
どこにいやがる。
なぜ俺にも言わずにいなくなりやがった。
大変な事件の最中にいるのはオメェだよ、





「シング…!」

「テクタ、さん?」
少しだけ明るくなったように見えたのは、テクタがシングを知っているからだろう。本来の彼はそうするだろうから。
「どうしたんだい!?」
テクタは、今のシングに似たような人の世話をしていた。だから、シングに起きている事件についてすぐ理解できたのはテクタだったからだ。ただ、その人とは違って、シングは話せる状態だった。多分、シングと同行していた少女がかつて体験したことと、同じだろうということが予想された。
「テクタさん…」
シングが、かつての彼には考えられない話し方で訴えたお願いを、テクタは受け入れた。









お兄ちゃんが活躍しない…!笑

























































































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