時少。

□37
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ある街中のカフェで新聞を読んでいた柚香の名を呼んだ。



「柚香」



気になる情報が入った、と志貴が出した一枚の写真。更にもう一枚。
それぞれ小学生と大人の姿だが、その二つはとても似ていた。成長過程のように。
それはかつて柚香と同じクラスにいた"吸魂のアリス"を持つ小泉ルナだという。
何故小泉ルナが蜜柑の傍にいるのか、理由は定かではないが目的は二つのうち一つだろうと志貴は言った。

アリスで思いのまま操るか、死か。


「それともう一つ。この写真だ」

「これは…あの時いた、」

「 "如月朔那" 」


スーツの内ポケットから取り出した写真には朔那が写っていた。おそらくZのアジトに乗り込んできたときのものであろう。


「この子がどうかしたの?」

「……見覚えはないか」

「あの時あったのが初めてだと思うわ」


志貴もそうでしょう?と問う柚香に頷く志貴。だがその表情は曇っている。
長年一緒にいる柚香だからこそわかること。微々たる変化だが、様子がおかしいことに気がついた。


「志貴?」

「……いや、何でも無い」


首を振る志貴を訝しげに首を傾けるが、目に映った小泉ルナの写真に再び唇を噛み締める。
自分の子供に、危機が迫っているかもしれないと。







騎馬戦のルール説明の中では、蛍のなぜかルール審査をクリア済みしているメカが登場。
周りもびっくりだ。


「うわー、今井さんって…」

『うん、すごいよね。ある意味。そして兄弟愛も別の意味ですごい』


嘲笑した昴に対してわざと目立つように呼びかける蛍に賞賛を贈りたいほどだ。
紅組の大将は心読み。そしてその騎馬に殿内という最強タッグという組み合わせに驚きが沸いた。


『………この勝負勝ったわね』

「え、何で」


近づけば恐ろしいことが待っている。故に誰も近づけない、否、近づきたくないというところか。

そして白組の大将はあの小泉ルナ。
アリスを未発表なまま大将という位置に正田が声をあげるが、有無を言わせないまま決定した。


『………』

「なるべく近づかないほうがいいね」

『大丈夫よ、瑪瑙』


きゅっと瑪瑙の肩に置いてある手に力が入った。そんな朔那を心配して言ったが、気丈に振る舞うわけでもなく本当に大丈夫だと笑っている朔那に瑪瑙は首を傾けた。


そして始まった騎馬戦。
白はフェロモンなどの接近戦。紅はテレポートや念力などの遠距離戦が得意なため、お互いに慎重になっている。

そんな中、蜜柑の騎馬が飛び出した。
無効化でフェロモンなどアリスが利かないと挑発しているのかと憤慨する白組の何騎かが、蜜柑達を取り囲むかのようにして星を取りに行った。

その様子を見て朔那と瑪瑙がくつりと喉を鳴らした。


「あーあ、簡単にはまっちゃって」

『素直なのよ。それに心理ってそんなもの、結構簡単よ。それにしても蜜柑もよく思いついたわね』


二人の言うとおり、蜜柑が飛び出したのは罠。影が重なったところで翼の影踏みが成功し、一気に三つの星をゲットした。

蜜柑の働きにより組に勢いがついた。
通称無敵艦隊と呼ばれる紅組が、一気に攻撃を仕掛ける。







「おー、すごいすごい」


呑気な口調の瑪瑙の目前に広がる光景は、紅組艦隊が次々と白組の星をとっている様子。

テレポートでの影分身で惑わせたり、念力で騎手を引き寄せたり、フライングで星をとったりと自分のアリスを最大限に生かして攻撃を仕掛けている様子に思わず感心する。


『それにしても…自分だけ安全地帯にいるのは気が引けるな』


騎手が朔那の騎馬は端の端にいるため敵に襲われることもなく、襲われたとしても一騎程度ならば返り討ちなため余裕で観戦している。


「まあまあ、ピンチになったら入るからいいんじゃない?」

『んー、まあそうなんだけど』


苦笑を零す朔那の耳に届いたのは、棗や正田が星をゲットしているというアナウンス。
紅組の主力チームのアリス切れにより一気に形成逆転のようだ。

爆風くしゃみにより美咲が、土に同化するカメレオンにチームにより委員長が、くさいオナラという地味な攻撃によりキツネ目が。
涙を流し殉職…!という言葉を背負う蜜柑に翼が「死んでない」とツッコミを入れるも聞いている様子はない。
それどころか敵をとる勢いで次々に星を奪っていった。


『あら、中々のファイト』

「ははは、佐倉さんてホントに面白い」

『さて…負けてられないわよ?瑪瑙』

「もっちろん。オレも負けず嫌いです」



朔那と瑪瑙は顔を見合わせてニッと笑った。


《おーっと!!!今まで身を潜めていた騎馬が星を一気に3つとったーーっ!!!
キタキタキタキターー!如月朔那だーーーッ!》


アナウンスがグラウンドに響き渡ると同時に観衆の視線はある一点に釘付けになった。
力技に持ち込むことなく、流れるように騎馬と騎馬の間を進んでゆき、するりと星を取っていた。
気がつけばない、という状況に白組は唖然とする他なかった。



「いい感じだね。おっと、朔那…挨拶みたいだよ」

『…そうみたいね』


ガラリと二人の雰囲気が変わった。
肌を刺すような冷たい空気。
二人の騎馬の前には白組の大将である小泉ルナが口元に笑みを浮かべていた。


『無防備にそこに私達の前にいるってことは、そのままぶっ潰してもいいってことかしら』

「クスクスクス……物騒ね。でもそんなこと言ってる場合かしら」


チラ、と小泉の視線が動かされた。
気づけば蜜柑達の騎馬が白組の騎馬に囲まれていた。朔那達が目を見開いたのはその様子ではなく、その中に紅組の騎馬が一騎混ざっていいることにだ。
襲ってくる味方に翼が声をあげるが様子がおかしい。


『……最悪ね、貴女』

「フフ、最悪なのはあの女の母親でしょう?消えればいいのよ、全て。あのお方の邪魔をするものは、みんな」


瑪瑙は顔を歪め、そして思った。
「狂ってる」と。
朔那が口を開こうとした時、目には見えない光がはなたれた。
それに気がついたのは、僅か数名。
蜜柑に襲いかかっていた騎馬は自分たちがどうしていたか分からなくて動揺しているようだった。
小泉も、自分が操っていた男達がいきなり正気に戻ったことに驚いているようだ。その様子に朔那は口を開いた。


『小泉さん、あまりあの子を見くびらないことね』


その言葉に頭に血が上った小泉は朔那に騎馬を向かわせるものの、急に騎馬の動きが止まった。


「それ以上近づけば、殺す」


瑪瑙の瞳が小泉を鋭く射抜いていた。
動けないのは瑪瑙の念力のアリスによるものだ。寒気がするほどの殺気にアリスで動けないことが、恐怖で動けないのだと勘違いしてしまいそうになる。


『瑪瑙、もういいわ。小泉さんの相手はあの子だから』


朔那が声をかけると縛っていた力はなくなった。視線を感じたほうを見ると、蜜柑がすぐそばで自分を見据えていた。


「手助けはしなくてもいいの?」

『必要ないでしょう、蜜柑に迷いはないようだし。問題は、残るでしょうけど』

「?」


辛そうな表情をするが、騎馬になっている瑪瑙にはその表情は見えない。
蜜柑と小泉が取っ組み合いになり、蜜柑が押し倒されようとしたが二人の騎馬は崩れ落ちてしまう。


「蜜柑ちゃん!」


倒れ込んだまま動かない蜜柑を翼が抱き起こす。
蜜柑も小泉も、アリスを四回使ったことでカウントシールが破裂し、そのペナルティで気を失っていた。
ただ、周囲は小泉がいつアリスを四回使ったのかわからず戸惑っていた。


「ねえ、大将が倒れたらゲーム終了だよね?」


心読みの言葉によって得点の計算がされ、結果は260対300で紅組の優勝が決定した。




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(加筆修正:2018/06/07)

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