時少。

□35
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借り物競争に出てたのは棗だ。
しかし、借り物のお題である"守りたい"は、判定では正確であると出た。
棗が好きなのは、蜜柑のはずなのに……どうして。

『(……なんか頭痛くなってきた)』

「朔那、応援合戦の準備やるみたいだよ」

『ん…』

考えても仕方ない。
今は彼女、小泉ルナが棗のそばにいるのだから、私は近寄りようがない。
とにかく今私にできるのは、危害がないよう気を緩めないこと。

「俺、生きててよかった…!」

『何を大げさに…』

「朔那のチアが見れた!これ以上の嬉しさに勝るものがあるだろうか!いや、ないッ!」

テンションがマックスな瑪瑙を軽くあしらい、自分の姿を見下ろす。
……つくづくこの学園の服装は露出が高いと思うのは私だけだろうか。
ヘソだしノースリミニスカ。腕やら足はむき出しのままだ。
男子の応援服もヘソだしなものの、足首までの長ズボンという比較的露出はない。

『瑪瑙も似合ってるよ』

「え、あー……ありがと」

視線を彷徨わせたあと、はにかむように笑う瑪瑙。これは照れているのだと知っているから、妙に微笑ましく思える。

『喉乾いたから何か飲んでから行くよ。先に集合場所行ってて』

「俺も…」

『瑪瑙は最終確認』

「う……気を付けてね」

相変わらずの心配性に苦笑が漏れた。
後ろ髪を引かれるような瑪瑙の背を見送った後、踵を返そうとしてぶつかった。

『ごめ、』

「如月さん、借り物競争お疲れ様。大変だったね」

『……小泉さん。ぶつかってごめんなさい、後方不注意だったわ。借り物見てたのね』

何かを企むような笑顔の小泉ルナは、ニコッと笑って私の後ろに視線をやった。

「棗君とずっと一緒に見てたのよ。ね、棗君」

『棗……』

振り向いた場所にいたのは、棗だった。口を開く様子はなく、私を見ているというより、私の後ろにいる小泉ルナを見ているようだった。

『棗と一緒に?』

「ええ」

『そう。仲いいのね』

にっこりと浮かぶ余裕を感じさせる笑顔に小泉はわずかに目を見開いた。
もっとショックを隠し切れないような表情を期待していたのに、と。

「朔那?」

「ッ…!」

競技の最終確認を終えた瑪瑙が朔那に小泉の背後から声をかけると、小泉の肩が大げさに跳ねた。朔那の後ろにいる棗は燃え盛るような瞳で瑪瑙を睨みつけている。

何してるの?とわざとらしく尋ねる瑪瑙に、口角を釣り上げたまま答える。

『小泉さん、借り物見ててくれたんだって』

「へえ、そうなんだ」

「う、うん…」

明らかに怯えている様子の小泉に朔那は首を傾げるが、瑪瑙の腕が肩へと回りくるりと反転させられる。

「もうそろそろ集合だから、行かないと。
もうすぐ出番でしょ?日向クンも」

『じゃあ、がんばってね二人とも』

瑪瑙に手を引かれて距離が空いたと思えば、小走りで瑪瑙の横にぴったりと寄り添うように並んだ朔那に再度交際疑惑が浮上する。

人目を気にしつつ小声で会話する。


『何したの?目に見えて怯えてたけど』

「ちょっと忠告しただけだよ。調子に乗ったら怒るよ、って」

実際はそんな穏やかなものではない。朔那はその場面を見ていなかったものの、嘘が含まれていることは感じ取っていた。

「それにしても、やけに普通だね。日向クンとイチャついてたって言うのに」

『ああ……嘘が見え見えな茶番に付き合うのも面倒で』

「あはは!朔那らしいよっ」

肩を震わせて笑う瑪瑙につられて朔那もクスクスと笑っていると、応援合戦が始まった。

白組の体質系と技術系のパフォーマンスは正にアリス学園そのもの。
オーソドックスな潜在系と稀なアリスであるがその分組み合わせが難しい特力系が毎年負けるのも無理はない。

『おお、今年もすごいわね』

「朔那ちゃんっ!あれ、何で上着着てんの?」

『出ないからよ』

チアの服装の上に羽織っただけの上着を纏う朔那に蜜柑が残念そうにつぶやく。
元々は朔那も出るはずだったのが、急遽変更となった。

『今回は全体のまとめ役。というわけで逆転目指して頑張って』

白組の次は紅組。スタンバイをするみんなを送り出して櫻野たちの横へと移動する。

『今年は勝てるかな?』

「どうだろうね。でも、どうしていきなり裏方に?」

『………』

途切れた言葉に櫻野が朔那の顔を上から覗き込むと、耐えるように顔をゆがめていた。

『何か、嫌な予感がするの』

脳裏を掠めるのは、別れ際の小泉の顔。
憎悪と憤怒、何より邪気があふれ出すかのような気を向けられていた。
その手は怒りに震えていて、アリスで視ようとも真っ暗で視ることはできなかった。

『杞憂で終わってくれたら、いいんだけど……』

順調に進んでいくパフォーマンス。笑顔を浮かべるべきところで浮かべきれない。
一番の見どころであり、一番の危険である初等部の空中パフォーマンス。
無事空で輪になっているみんなを見て一息ついた。
身の毛がよだつほどの気配。


自分の体を抱きしめるようにすると同時に、空中の蜜柑にかかっているアリスが、切れた。




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(加筆修正:2018/06/07)
 

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