時少。
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「はーいこんにちは!初等部のみ、合同能力別クラスのお時間です。
何と今日の授業は、初のアリス石作りを行いまーす!」
鳴海の言葉に浮足立つ面々。
それは蜜柑達も例外ではなく、鳴海の説明を真剣に聞いていた。
アリス石の色は能力の個性、その人の性格などが色に出る。
鳴海ならピンクパープル、岬はブルーグリーン、セリーナはローズパープルとブルー、今回は欠席の野田はライトグリーンという具合だ。
「んで、野田先生の代理の殿内君はブルーパープル」
「殿先輩!?」
驚く蜜柑に対し気軽にあいさつを交わす殿内。彼はアリスストーンに関しては中々のエキスパートらしい。
「こんにちはバカ殿…」
「エロ殿ー」
「アホ殿クソ殿」
「敬意を払え敬意を」
蛍、心読み、棗の言い草に殿内の顔に青筋が刻まれたが、咳払いを一つしにやりと笑った。
「ま、今回は俺だけじゃねーがな」
「え?他に誰かおるの?」
「そろそろ来るころなんだけどなー」
時計を見てそうつぶやくと、教室の扉がキィ、と開いた。
『………どうして殿がいるのかしら』
教室中の視線を一つに集めながら顔を歪める朔那に、わっと驚く声が湧いた。
「朔那ちゃん!」
教師たちを除く全員が驚く中、笑みを見せた朔那はあっという間に囲まれた。
「この間目が覚めて、せっかくだから連れてきた」
囲まれる朔那を見ながら笑っている殿内はしてやったりという顔だ。
「それじゃあ始めましょー」
各能力別の教師のもとに移動する。
その際に、蜜柑は拾っても拾っても返ってくるアリス石について、殿内に尋ねていた。
「殿先輩みてみてこの石」
「んー?」
『アクアマリンの石、に何か混ざってるわね』
私にも見せて、と掌に乗った石をよく見てみると、記憶の片隅にあるものと酷似していた。
『(秀一…?)』
どうして彼が蜜柑にこの石を渡したいのか分からないまま、石は蜜柑の手元に返った。
「朔那、お前も休んどけよ」
『そのつもりよ。っていうか、今日がアリスストーン実習だって聞いてないんだけど?』
「言ってなかったか?」
じろりと睨むもののしてやったり顔で笑う殿内に何を言っても無駄だと悟ったのか、講習を受けるみんなの邪魔にならないよう、窓際に移動すると、棗がいるところにスミレがウキウキの様子で尋ねてきた。
「棗君はアリスストーン作りにしないのー?朔那様もー」
「あー二人ね。二人はもうアリスストーン作りに関しては何も教えること何もないレベルだから。
本人たちの希望もあって、今回の授業は自習時間として使ってもらうことにしたんだ。
朔那ちゃんも、目覚めたばっかりで櫻野君達からストップかかってるからねえ」
スミレだけでなく中等部の人たちの舌打ちに鳴海は身を引いた。
女性は棗目当てにしても、その中に男子生徒も混ざっていることから朔那目当ての者もいるのだろう。
「き、如月さん!よかったらお手本だけでも見せてほしいんだけど!」「あ、俺も!」「ずりいぞお前ら!」
朔那がほっとしたのも束の間、数人の男子生徒に詰め寄られる朔那が戸惑っていると、朔那の背後を見てしまった彼らは顔を青くさせてそそくさと逃げるように去ってしまった。
疑問符を浮かべる朔那が後ろを振り返るとすぐ近くに棗がいた。いつにも増して睨みをきかせていた。
『棗?』
「お前、いつ起きたんだ」
『1週間くらい前かな。そういえばお見舞い来てくれたって聞いたよ、ありがとう』
嬉しそうな朔那の笑顔がやけに懐かしく感じた棗はぐりぐりと頭を撫でると何も言わずに窓際へ戻ってしまった。
『(…!?)』
棗の対応に固まった朔那が窓際の棗を見ると、のんきに雑誌を読んでいる。
ぐるぐると意味を考えている朔那を不思議に思ったのか殿内が顔を覗き込んだ。
『………なんでもない』
「ほんとか?具合悪くなったらすぐに言えよ?あの二人からも言われてんだから」
『過保護…』
「それを言ってやるなよ…お、蜜柑もつくるみたいだぞ」
両手を組んで必死な形相で取り組む蜜柑だが、集中できていなかったり実力相応ということで出来上がったのは小さな欠片ほどのアリスストーンだった。
「そういや…朔那のアリスストーンって見たことねえな」
『…そうだっけ?そんなことより、落ち込んでる子達なんとかしたら?』
殿内にとってはなんとなく零れた独り言のような言葉だったが、いつになく乾いた朔那の返しに殿内は後ろ髪を引かれる思いで"闇アリスストーン"を提案した。
「たとえば…」
『(何か企んでる…)』
嫌がる蛍たちを説得させようと委員長に耳打ちする殿内を朔那は呆れた目で見ている。
心読みが流架のアリス石を使った場合、蛍が野乃子のアリス石を使った場合などの映像が現れた。
「そしてルカぴょんと朔那がパーマちゃんのアリス石を…」
『殿…』
猫耳、しっぽを生やした流架と朔那の映像が出た途端、周囲が盛り上がった。
代わりに殿内は朔那に詰め寄られている。
「ち、ちなみに…ご褒美に俺を含め、先生方も闇アリス石に参加ー」
尚一層盛り上がる周囲に蜜柑はつまはじきにされた。
『相性なんかがあるから簡単には使いこなせないのに…』
「ガキなんてちょろい…」
メラメラと燃える皆を朔那は苦笑して見ていると、自分にも狙いが定まっていることに気がついた。
『アリスストーン作ってないのに何で私まで…?』
「相変わらず鈍いなお前…なんなら俺のと交換するか?」
『結構よ』
ほれ、と見せられた殿内の茄子色ストーンに見向きもせずに断った。
『そもそも、殿のアリスストーンはもう貰ってるわ』
「それもそうか。なら朔那のをくれてもいーぞ?」
『……そのうち、ね』
それを最後に、逃亡の準備を計るために殿内から離れると、棗も逃げようとしているのが目に入った。
棗も視線に気がついたようで、目が合ったがパッと自分から目をそらしてしまった。
しかし、何故か向こうから歩み寄ってきたことに朔那は若干焦りながらも驚く。
近づいてきながらも話さない棗に気まずい空気が流れる。
「お前どうすんだ」
『どうするって…』
「アリス石、作れねえか作らないかは知らねーが、交換できねえんだろ」
朔那が息を呑んだと同時に部屋の照明が落とされ暗闇に包まれた。
その場から逃げるように駆け出した朔那は闇に慣れた目で人の波を縫うように避ける。
途中視界のきかない生徒に触れられそうになったものの、寸前で身体をかわして何とか壁まで到達した。
ちょうどそのとき照明がつく。
後ろを振り返ると棗は蜜柑にアリス石をもらったようだ。蜜柑が棗の腕を掴んだように見えたのは、きっと拾ったアリス石のおかげなのだろう。
ほっと息をつくと蜜柑と別れた棗がこちらに向かって進んできたことにぎょっとした。
「……ん」
『…?棗、これ…』
「交換しねえならいいんだろ」
突き出された拳から落とされたのは炎を閉じ込めたかのような真っ赤なアリス石だった。
突然すぎて戸惑う朔那から目をそらして言い残し、棗はすぐにその場を離れた。
アリス石の交換は、この学園においてはちょっとした意味をもつ。
ほとんどの女子がそれに憧れ騒ぐものの、朔那は一線を引いていた。それはそういうジンクス自体に興味がないのもあるが、交換という点において朔那自身に無関係だからだった。
『…また、もらってばかり…』
手のひらの中のアリス石を握り締める。
もらってばかりで返すことができないことに、朔那は祈るように握り締めた手を額に当てた。
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(加筆・修正:2017/07/03)