時少。

□23
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荒れ模様な一年であった年を終え、今日から新年である一月一日、所謂元旦。
生徒達は学園から支給される着物に袖を通し新年を祝うのだ。勿論それは蜜柑達も例外ではなく、寮母ロボットタカハシさんによって着つけられる。

「かわいー!」

「みんなもかっこいー!」

正月ばかりは星階級制度がなく、皆で談話室などでお節を食べたり過ごすのだが、その場に朔那の姿はない。

「そういえば朔那ちゃんは?ルカぴょん」

「朔那なら高等部に行ってるよ。毎年着物は高等部で着つけてもらうんだ」

「まさかまた特注なん!?えーなーっ」

『私はそろそろみんなとお揃いにしたいけどね?』

蜜柑への返答も兼ねながら不機嫌そうな声を漏らしながら談話室の扉を開くのは、今話題にあがった朔那だ。

「わあっ!」

「朔那様お綺麗ですっ!」

入ってきた朔那の姿に声を上げるのは当然と言えば当然だ。何しろその朔那は白地に桃色や水色の花々がふんだんに描かれた着物を纏っている。
髪は上部の一部で一纏めにされ、下の方は流しているので少し大人びた雰囲気があった。
髪を纏めた簪の飾りがしゃらん、と揺れた。

『毎年のことだけど、こうも何時間もかかるとね……空腹だわ』

「お節あるよ!」

『いただくわ、ありがとう委員長』

委員長からお節の中身を分け取ったお皿を受け取り、美味しそうに頬包みしていると、袋に入ったお年玉が配られた。
お節などは星階級制度は無いのに、これはきっちり階級別であることに朔那はある意味感心した。

『(これもまた貯金行きか)』

朔那に物欲はさほどない。毎月渡されるお小遣いも使い道はほとんどなく、誰かへのプレゼントやたまのお菓子代だ。
セントラルのお店で買おうかと悩もうものなら、その珍しさ故に、居合わせた学園の半分以上が朔那の知り合いが買ってプレゼントされてしまう、という事情も合わせ、小遣いを使ったことは数えられるほどである。

「お前、また貯金行きにするつもりだろ」

『ノーコメントだわ』

言葉にせずともお年玉の入った袋を遠い目で見つめる朔那の表情を見ただけでわかる棗もあきれ果てているようだった。

『あけましておめでとう、今年もよろしくね棗、流架』

「うん」

「…ああ」

今年で三度目の挨拶に、ようやく新しい年が始まったと実感がわいてきた。
書き初めや福笑い、かるたをしていると、読み手の蜜柑が切り出した。

「しってるかい?
今日が一体
何の日か」

新たな読み札を作ったことにスミレは怒るが、心読みや流架は蜜柑の質問に答える。
一月一日にちなんだ事を言い当てるがどうやらはずれのようで、嬉しそうにヒントを言いだす蜜柑。自分の誕生日であることを気付いてもらおうとドキドキしながら伝えようとする蜜柑に被さるように、タカハシさんの声がした。

「みなさーん、年賀状が届きまっしたよー」

家族や友人からの手紙類であることに生徒は走り出す。勿論、蜜柑のことなど放っておいて。落ち込んだ蜜柑に委員長は気遣うが、蜜柑宛ての年賀状を渡すと誕生日の事など頭からすっぽりと抜け落ちた蜜柑に、蛍と棗は白い目を向ける。

『(可愛いなぁ)』

かるたをしていた皆を遠くで読書しつつ眺めていた朔那が蜜柑の見事な切り替わりに思わず噴き出した。
年賀状を手に喜ぶみんなを見ていると、蛍の周りに段々と年賀状のビルが建てられた。

『さすがは技術系期待の星ねえ…』

「ルカ君!その年賀状の写真、ルカ君の家族!?」

ぽつりと呟いた時と同時、スミレの興奮したような声があがり、流架の少し怒った声が聞こえそちらに目を移す。

『(あー…流架の母親のか……インパクト大だったからよーく覚えてますとも)』

去年か一昨年かに見せてもらった写真を思いだしながら遠い目をする朔那だが、そろそろ流架が叫びをあげ出したので助け船を出そうと腰を浮かせば、棗も動き出したので同じことをするようだ。

「許可なく人のハガキ勝手に見てんじゃねーよ」

『人の嫌がることを無理やり、っていうのは関心しないわよ?』

「ルカ、ほら」

蜜柑が見ていたハガキを後ろから棗が取り上げると流架がばっと棗の手から受け取った。
返す言葉もない棗の言葉に覗きこんでいた女子達は若干落ち込む。

「あ、朔那ちゃ「如月さん、言いダスか?」

『はい?』

蜜柑が話しかけようとすると、タカハシさんが扉から身体(頭?)を覗きこませながら入ってきた。

「今年はアレどうしまっすか?」

『今年もいつも通りにお願いします』

「分かりまっした」

タカハシさんにありがとう、と礼を伝え小さく息をつき、疑問符を飛ばす蜜柑達に気にしないでとヘラリと笑った。

『それより蜜柑、名前呼ばなかった?』

「えっ!?あー…朔那ちゃんと棗は年賀状て何枚来たんかなーと」

戸惑いながら発した蜜柑の言葉に、空気が凍りつき棗の目がより一層冷やかになった。
あらら…と額を押さえた朔那は、大きな音を立てて扉を閉め出て行った棗の背を見ながらわけのわからない蜜柑を宥めた。

『仕方ないわ、知らなかったんだもの。後で謝っておけばいいわ』

蜜柑の背を軽く叩き、外出すると言った朔那は小さく扉を閉めた。
棗にも朔那にも訳が分からない疑問符を浮かばせると、スミレに怒りの混じった言葉を浴びせられ、棗には手紙など一切こないことを知り落ち込むが、朔那はどうしたのかと尋ねた。

「朔那様にも手紙は来たことがないわ…それは私も知らないけど、ルカ君は知ってる?」

「え……んと、俺も詳しくは知らないけど、年賀状とかに来た大量の手紙はいつも捨ててるってタカハシさんに聞いたことある」

「捨てるっ!?」

「うん、理由も聞いたけど……いらないものだからって…。あと、朔那宛の手紙はいつもたくさんきてるはずなんだけど、朔那が手紙読んでるのは見たことないような」

「………とにかく、棗君や朔那様の家族の事とかも私達きいたことないし少し考えればわかることなのに」

そしてスミレに"地雷バカ"と言われ落ち込んだのは言うまでもない。



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