時少。

□21
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嵐のようなXmasパーティも過ぎ、気がつけば蜜柑たちは大掃除の日を迎えていた。
箒を片手に想いにふけていると、誰かが投げた樋口ブタが頭にヒットした。
窓から外を見ると、雪が吹雪いてた。



蜜柑が手紙に書く出来事。
その日の大掃除にて、技術系に属する二人のアリスが影響して出来た物から出来た"もったいないオバケ"や"煙オバケ"ある。
そのオバケに大層愛着を持っていた二人は捨てられた哀しみのあまり泣き出してしまった。
その二人を慰めるために開かれたのが"学校の怪談大会"である。


心読み→蛍→流架→パーマと続き、現時点ではパーマが有力らしいが、棗が膝に乗せていた陽一の様子が変わったことに、棗が気がついた。

「………いるのか?」

棗が尋ねると小さく頷く陽一から距離を取る蜜柑達。
その蜜柑を指差し唸る陽一の言葉を代弁するように棗が言葉を紡ぐ。


"お前の後ろにいる"と、指差された蜜柑から再び蛍たちは距離を取る。
しかしまあ、棗が再び告げた言葉に一気に脱力することになるのだが。
そして幽霊などが苦手な蜜柑は大慌て。
その拍子に壁に貼ってあったお札を剥がしてしまった。陽一が貼ったものらしく、蜜柑が陽一に尋ねても無視されるので……何か悪いことでも起こる…と言われていると、なんとまあ、今が旬の気まずい三人組での掃除となった。

そして現在。何故か停電してしまい、暗闇の中三人は廊下の端に座って待機中。
気まずかった三人はいつの間にか和解しており、今見ない一人の少女が気にかかる。

「………そういえば…今日朔那ちゃんは?」

「朔那、ずっと部屋にいなくて…」

「え、おらんかったん?」

毎朝食堂で見かけるが、最近見かけなかったためどうかしたのかと部屋に見に行ってもものけのから。
先に行ったのかと思ったが教室に行っても誰も見ていないらしい。

「どこ行ったんだろう…」

「………」

流架は心配そうに目を伏せた。声色が少し沈んでいるのは、余程朔那のことを案じているのだろうが、棗はただ固く口を閉ざし、赤い瞳の奥に過去を映していた。

「(…あいつ…)」

木の下に降りると驚愕の色に縁取られた大きな目を零れそうなほどに見開いていた。
あんなに驚いた朔那は初めて見た。
あれから姿を見せない朔那のことが頭から離れない。無性に会いたくなった。



バチッ



三人の上にあったライトがいきなり光った。
ヒュウ、と冷たい風がどこからか吹き、寒気が三人を襲う。すると暗い廊下の向こうからヒタヒタと、片足は裸足、片手には鋏を持った女が。


暗くなった初等部校舎を歩いていると、血でびしょぬれ女生徒の霊が…。

長い髪を垂らし、手には鋏を持って

出会った人間を必死の形相で、あの世へ道連れにしようと

追いかけてくるという




「みか…ん、ちゃ…」

「ギャアアアアアッッッ!!!!!」

幽霊嫌いな蜜柑にはこれは恐ろしい。怪談の時に正田スミレが言っていた通りのことである。
お札の祟りがああぁ!と叫んで流架と共に教室へ走って行ったがマイペースな棗はその女に背後から容赦なく蹴りを食らわした。
倒れた際に見えた顔は、見なれたもの。

「お前…のばら…」

幽霊と思えば中等部の茨木のばら。
実はお札、陽一のお絵かきである。
これを知っているのは鳴海と朔那だけだったのだが、生憎とその場に二人はいなかった。





『……ペルソナ』

雪が吹雪き、凍りそうになるが既に凍りついた心には何も感じはしなかった。
本部にある一室の扉を開けば、そこには全身を黒で纏めた一人の男…ペルソナが。

「朔那か」

『ねえ、まだあるんでしょう?出し惜しみしてないで、さっさと出して』

「お前の分はとっくに終わっている」

『私の分でなくていい。他の…のばら達の分も残っているでしょう』

何の感情もない、淡々と告げられる言葉。
今の朔那の姿は"暗黒アリス"の格好である。目には仮面をつけているため、その表情は窺いしれない。

「……何故そんなに任務をやる」

『理由なんかないわ…ただ、今は力を出したいだけよ』

でないと…暴走してしまいそう…。
そう聞こえたのは、気のせいか。
校長には許可は取ってある、と続けられれば拒む意味はない。
ただ、これで他の危力系のメンバーの仕事はなくなるが。

「…もし、お前が危力系を庇っているのだとしたら…」

『ペルソナ。私はそこまで、お人よしでもないし、優しくもないわ。これは私自身の為よ、誰の為でもないわ』

淡々とした声色に、少し怒りが混じった。
一枚の紙を手渡し、目を通したかと思うと朔那は踵を返して部屋から出ようとする。

『校門前に』

「分かっている」

待ち合わせの場所なのだろう。
任務地にはペルソナが車を手配して行くのだから。

「………興味深い」

あの仮面の奥には何を隠しているのか。
あの仮面の奥の瞳には何を映しているのか。
齢10歳の少女が持つ、あの力はどこまであるのか。


空から降り落ちる白い粉を見上げ、黒い男は仮面の下で人知れず笑った。







「く…っ!」
「ああああぁああぁぁぁぁぁっっ!!!」
「やめ…っ、誰か…!たす、け…」


『……………』

足元から凍っていく大人達。それを見下ろしながら、自嘲気味に呟く。
酷く、冷たい目をしているのだろう。それこそ氷のような。

『終わったわ、次』

「はい」

車に乗り込んで告げると事務的な返事を返す運転手。
車の窓から見る外は、モノクロ。
あの暖かな場所へと戻りたいけど、戻りたくない。
そんな二つの気持ちがぶつかって、自分がどうしたいのかが分からない。
ただ分かるのは、じっとしていると、3つのアリスが暴れ出しそうなほどに激しくぶつかっていること。

『…っ、…!』

ビリビリとする心臓の場所を掴み、耐える。
力が暴走寸前なのだろう。どこかで解放しなければ危ない。
これも、私の気持ちが揺れているから。

「到着しました」

あと、どのぐらいあるんだっけ。
体が鉛のように重たい。だけど動いていないよりはましだ。座っているだけでも、あの二人を思い出してしまうから。


「あ゛ああぁぁ!」
「く…っ!こいつが"暗黒アリス"…!」

『……"暗黒"ね…』

いつからかつけられるようになった裏の名。
最初は気に入らなかったが、最近では私にあっているような気がする。

「この…バケモンがああぁ!!!」

『………"黙れ"』

耳触りな声と単語。刃物を持って向かって来た男に"言霊"を使い、指で示し"マリオネット"で深紅の華を咲かせた。

『………終わった』

もう学園に戻るのか…しばらくは任務もないだろう。
どこかに匿ってもらうかな……だけどそれだと流石に心配される……、?

『だれが……しんぱい、するんだ…』

こんな"ばけもの"を。
だれも、いない……わたしを、しんぱい、するひと、なんて。

『----っ!!』

大丈夫、大丈夫…慣れてるじゃないか。
一人なのも、ああいう風に言われるのも。
ずっとずっと一人だった。だから…大丈夫。



化け物…!!近づかないで…!!!


もうすぐお前を迎えに来る。それまでそこで大人しくしていろ。


『おむかえ…?』


そうだ、お前のような化け物の集団だ。


『ばけもの?わたしは、きさらぎのむすめでは、ないの…?』


お前のようなやつは"如月"の汚点だ!出て行け!二度と私達の前に現れるな!






遠い昔のキオク。
思い出したくもない、忌々しいキオク。
あれ以来、静かな、暗い場所が苦手になった。
夜に寝るときも、電気をつけているか、音楽を流すか。
それでも怖い時は……

『………め……なつ、め…』

暖かい炎のような赤い瞳。
いつのまにか、傍にいてくれることが当たり前のように感じていた。
だが、それは錯覚。私たちは、違う世界に住む人間だ。

『……も…疲れた……』

泣くことにも、嘆くことにも、逃げ回ることにも、立ち向かうことにも、自分を偽ることにも、自分を曝け出すことにも。

力の入らない足を無理やり動かし、ふらつきながらも車に乗る。
重くなる瞼に従って目を閉じる。その間際、最後に見たのは真っ赤に燃えた赤い色。

いつの間にか、アリスの暴走も止まっていた。





「帰ったか…」

『………』

本部のソファに身を沈めるようにして座っていた朔那を見ると、ペルソナが確認するように呟いた。
小さな呟きだったが、物音一つしない部屋ではやけに響くように感じた。
ペルソナに顔を向けると、もう用はないとでも言うようにソファから立ち上がった。

『部屋に戻る。また任務が入ったら教えて』

「分かっている。それまで体調管理はしておくんだな、お前にはまだ死なれては困る」

最後まで聞いたのか聞いていないのか分からないが、ペルソナの言葉が終わると同時に部屋の扉が静かに閉じた。



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(修正加筆:20160906)

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