時少。

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"生まれてきてくれてありがとう"

その日が無ければ私は今でも暗いところで蹲るだけの日々を過ごしていた。
生まれた日が嫌いな私でも、大事な日は大切にしたいと願えるようになった。

『(あ、誕生日…過ぎてる…)』

気づけばZの件からもう数日。今年初めての雪が降った。
だが、ふと目についたカレンダーを見ると現在12月。先月11月を振り返れば、バタバタしていてすっかり頭から抜け落ちていた彼の誕生日。

『(…今年は何をあげようか)』

去年は、棗と流架の二人に貰ったブレスレットの色違いを贈った。もらった物は安全なところに保管してある。
贈り物なら、喜んでもらえるものを贈りたい。

丁度いい、今日は12月24日に行われるクリスマスパーティーのプレゼントを買うためにセントラルタウンへ出掛ける。
わざわざ棗の目を忍んで出掛けなくてもいいので好都合である。

そろそろ着替えなければ、とクローゼットを開ける。
いつもの初等部の制服に学園指定のコート。本当はベレー帽を被るけど、邪魔なので必要ない。
財布に少し多めのお金を入れて、棗達と待ち合わせしている場所へ向かった。

少し早すぎたのか、待ち合わせ場所には誰もおらず、仕方ないので近くの木の上へと軽々登る。
クリスマスプレゼントは適当で構わないが、棗へのプレゼントとなれば難しい。うーん、と頭を悩ませていると、流架と棗がすぐ側まで来ていた。

「朔那、何してるの」

『お早う二人とも。少し早く着いたから』

「ねーちゃ、」

『おいで、陽一』

木から飛び降りて棗達の横に軽く着地し、流架の腕の中から私の方に手を伸ばして来る陽一を抱き上げた。ゆっくりと歩く棗と流架に挟まれる状態でセントラル直通のバス停へと向かった。

セントラルタウンのアリス通りはクリスマス一色。どこに行こうか、と話していたら女の子の黄色い声が響いた。

「朔那様、棗くん、流架くんっ!」

『正田さんもクリスマスプレゼントの買い物?』

「はいっ!わたしもご一緒していいですか?」

『私はいいよ。二人は?』

「俺は…別にどっちでも」

「……………興味ねえ」

『いいって』

歩き出して、正田さんはプレゼント決まってる?と尋ねれば、決まってるとのこと。先に正田さんのを買いにお店に行くと、可愛らしいお店だった。

『私もここで買おうかな、二人は?』

「俺達はあそこにいるよ」

示されたのはすぐ近くのお店。まあ、今から入るとこはいかにも女の子チックだし、気まずいだろう。
分かった、と返事をして正田さんと店内へ入る。少し見回れば、ウォールハンガーにかけられたマフラーに目がついた。
真っ白でフワフワ、気持ち良さそうなそれを手に取ると、後ろから若い男の声がした。

「お目が高いな、嬢ちゃん。それ、"裁縫のアリス"の人が作ったやつだぜ」

『裁縫のアリス?』

「あぁ、作った小物は持ち主の考えに反応して、その形に変わるらしい。少し大きな物を入れたいと思ったら、そのサイズに変わったり、な。
そのマフラーの場合は網み目が小さくなって風が通らなくなったり、長さを好みに変えられるらしい」

『へぇ、じゃあこれ頂きます』

会計後、クリスマス用にラッピングされた包みを受け取り、正田さんの元へと移動した。

『お待たせ』

「いいえ大丈夫ですっ」

『それなら良かった。じゃあ棗達の所に行こうか』

「あの、朔那様。棗くんの誕生日なんですが……」

『プレゼント?いいよ、棗には内緒で流架にも言って準備しようか』

「はい!」

正田さんいい子だなあ、と気持ちがほんわかした。
棗達がいるお店に行くと、何故か通称持ち上げの姿もあった。

『プレゼント買えた?』

「ねーちゃ」

「うん、大丈夫。これからどうする
?」

『適当に歩こ』

陽一を抱き上げて棗と共に歩いてく。ちなみに流架は正田さんに腕を掴まれてつかまったようだ。
よいしょ、とずり落ちそうな陽一を抱き直す。右腕にプレゼント、左腕に陽一は少しキツいな、と思っていたら急に右腕が軽くなった。右手にあった包みは隣の棗の手に移動していた。

『……………ありがとう』

「……別に」

『(相変わらず素直じゃない……)
そういえば棗、荷物は?』

「送らせた」

『え、私もそうしてもらえば良かった』

何買ったの?と聞いてみたら、適当と返ってきた。
その内容を聞きたいんですが…。
隣を歩く持ち上げ君が私のプレゼントを持つ棗に自分が持つ、と言ったけど断っていた。

『(………なんか、)』

棗が優しい。優しいのがちょっと怖い、というのは失礼だし口に出せば怒られる上に拗ねられるので決して言わないが、こうも直接的に優しくされるのは珍しい。
元々彼はとても優しい人だが、今日は少し様子が変な気がするのは気のせいだろうか。

『あれ、流架……と鳴海?』

気がつけば少し離れた場所に流架達と相変わらず派手な格好の鳴海がいた。
金髪二人はさすがに目立つため見つけやすい。
鳴海の姿に棗の機嫌が急降下したのが肌に伝わる。そこまで嫌いか。




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