時少。

□15
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「蟻地獄に引っ掛かったのは2匹だけですか。
まあいい。どっちにしろ全員籠の中の鳥だ。
残り3人を大広間まで案内して…」

「幹部」

黒髪に眼鏡をかけた男性…御原の言葉を遮り、モニターに向かっていた男が呼ぶ。

「この侵入者、組織のデータと念のため照合してみたんですが…この子供…」

ピ、と言う音とともに監視カメラなどで映っているのであろう棗の名前・アリスが出てきた。

「あの黒ネコです」

「ほう…それは…。
高名なる我が"後輩"殿と、初対面というわけですか…」

御原の視線の先には、日向棗。







「う゛…ん……ぷわっ!!
ぷえーーっぺえっぺえっ!すなじゃり…」

勢いよく飛び起き、口の中に入った砂を吐き出す蜜柑。
はっと気がつくとそこは牢屋のような場所。

「(ここどこ…!?み、みんなは…!?
なんなんこれ…いきなり床おちて…ウチ、変な骸骨みたいなんに引っ張られて……朔那ちゃんが手を握ってくれて……みんなとはぐれて…)」

ぬっと思考と視界に入ってきた"変な骸骨"。

「ひーーっっガイコツ動いてるーな…なんなーんだれかーヘルプミーびえーー!」

何がなにやら、何を言ってるのかさえ分かっていない蜜柑。
少しでも離れようとしていると、蜜柑の叫びがうるさかったのか、今まで気を失っていた朔那が目を覚ましたのを見て勢いよくだきついた。

「う…う…さ、朔那ちゃーんっ!がががが、が、ガイコツがーー!」

『…蜜柑…分かったから…少しはなれて…』

こちらに何かする気はないようで、警戒を緩めた朔那は蜜柑の背中を撫でて落ち着かせようと試みた。





「日向棗の同行者についてですが、一緒に行動している男2人については組織データに何もなかったんですが、捕獲したこの少女2人についてデータがありまして………。
ちょっと気になる点が……」

「何だ」

「この2つくくりの子のアリスなんですが、どうやらレオさんの事件の時に関わっていた少女らしくて、あまり確証のもてるデータと言い難いのですが…。
もし本当なら珍しいアリスかと……無効化のアリスなんです」

"無効化のアリス"
その言葉とともに、安積柚香の顔色が変わった。

「ほぉ…無効化…。確かに珍しい」

「黒ネコといいこの少女といい。この娘も直接ボスのもとに送るべきかどうか…」

「待って下さい」

話している場に、焦ったような…しかし凛とした意志をもった女性の声が響いた。

「不完全なデータをもとにボスに身柄を引き渡すのは…早計だと思います」

「言うねー安積ちゃん」

その場に似合わぬ男の声が一つ。
ドアの方へと聞こえてきたそれにその場にいる全員が目を向ける。
そこにいたのは、青色の髪をしており酷く顔の整った所謂美形に属すもの。服装は白衣でその下はゆったりとしたTシャツにカーキ色のズボンだ。

「瑪瑙(めのう)君…終わったんですか?」

「御原幹部。いえいえ、単に休憩ですよ。なんだかアジトが騒がしいのでどうしたのかと」

「学園からの侵入者です。君には特に関係ないかと」

"瑪瑙"と呼ばれた男はその言葉にニッコリと笑ってそうですか、と返す。そして柚香へと視線を移し、整った顔に笑みを浮かべる。

「それにしても大胆なこと言ったね、安積ちゃん」

「…確かに。盗人が一人前に言いますね」

「でも俺は安積ちゃんの意見に賛成かなー?これで間違いでしたーなんてボスに報告すれば、ただでは済まないだろうし?」

肩をすくめる瑪瑙を横目に柚香は踵を返す。

「…どこへ?」

「データ収集に私が少しでもお役に立てるかと」

どうやら、蜜柑と朔那の場所へいくようだ。

「女の私が行って安心させた方が子供には効果的と思いますから」

「ふん…では志貴君」

柚香と一緒にいた男を呼びとめる御原。

「無効化のデータ収集は彼女に一任して、君には"黒ネコ"達の捕獲にあたってもらいましょうか」

柚香の横顔と志貴の横顔。
二人は、遠くの記憶を思い出していた。
自分のやっていることが、正しいのかが分からない時のことを…――。







「はぎゃっ!」

『……何してるの蜜柑』

シクシクと泣いていた蜜柑がいきなり前のめりに倒れた。恐怖で頭がおかしくなったのかと疑いそうだ。

「え、えー…朔那ちゃん…。い、今の幻覚!?恐怖のあまりの?」

『……何を言ってるのかはよくわからないけど、あなたがバカということだけはよくわかったわ。それと、この骸骨はアリスだから安心しなさい』

「え、あ…そうなん?よかったー…」

『ほら、泣いても仕方ないでしょ。
大方蛍にでも空想の中で絞られてきたんだからしっかりしなさい』

ズバッと本当のことを言い当てる朔那だが、これは本当に勘なのだから恐ろしい。

「う、うん!!(……笑えウチ!!)
アハハハハ、アハハハ」

『………(本当に大丈夫かな)』

「アハハハハ、笑うとほーらだんだんガイコツなんてこわくなーい。
だんだん楽しくなってきたぞー、アハハハ」

『…いや、骸骨より蜜柑のほうが怖い…』

いきなり笑い出した蜜柑に骸骨とともに引く朔那。

『はぁ…(仕方ない…か。私や棗はともかく、蜜柑は普通の子だ)
ほら、しっかりしなさい蜜柑。
私たちが今考えること、分かるわね?』

「…うん!
この部屋を突破してみんなと合流すること…!」

『正解。じゃ、どうやって出るかを考えましょう』

「うんっ!」

朔那の頭には、翼と流架…棗の心配が残る。





「御原幹部!この少女…無効化と一緒にいるもう一人の少女なのですが…」

「ああ、そういえば言ってましたね。
その娘がどうかしましたか?」

柚香が出ていった後、モニターの前に座っていた男がピ、と朔那を映し出す。

「実は、この少女…。
組織データによると、かの"暗黒アリス"らしく…」

「な…っ!?」

男の一言により、その場にいる全員の体が凍りついた。
御原も口を開けたまま正に唖然と言った風だ。

「暗黒アリスって…」
「確か、あの黒ネコよりも有名な…」
「いつも顔を隠してるやつだよな…。冷酷無慈悲で有名な…」

"暗黒アリス"
それは朔那の裏の名前であり、裏社会により強い権力を持つ名前。
絶対的な力。能力。身のこなし。
任務時には目元を覆う仮面をつけ、風にその髪を翻し全てを黒に染める。

まさに"暗黒"にふさわしい。

しかしその素顔を見たものはいない。
見たとしても、全員が消されるため、知っているものは存在しない。

「ふ…っ、はははっ!」

御原の急な笑い声に、コソコソと話していた者たちは一瞬で静まりかえる。
御原の口がニィッと引き、目は狂喜のごとく笑う。

「一番の収穫は…コレですね…」

手にしたい。この娘を。
この力を手に入れれば、どれだけの者を従えられるか。
どれだけの権力を。
どれだけの富を。
どれだけの命を。

そして、朔那の姿を見てぼそりと呟いたのが一人――。

「朔那……見つけた」




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