時少。

□14
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夢を見た。



「みかんっ」



「どんなアリスだって、その持ち主の使い方次第で毒にも薬にもなる」




"時のアリス"が見せてくれるこの夢を生かせるかどうかは、私次第。









「翼せんぱーい!朔那ちゃーん!おーきーてー!」

『………ん…』

「おはよー朔那ちゃん!」

朝から元気な蜜柑でのお目覚め。
まだぼーっとしている頭で辺りを見回す。

「………まだ寝ぼけてんのか」

「お早う朔那。大丈夫?」

『……………あぁ、棗、流架…。お早う』

幾分か反応が遅れたが、おかげで目が覚めた。呆れるような棗と心配そうな流架の声。
棗がまたか、とぼやいていたのは無視だ無視。

「翼せんぱーいっ!!」

「佐倉、起きないの?」

「うん、どうしたんやろ…」

「どけ、燃やす」

『棗ストップ』

"言霊"を使い昨夜かけたアリスを解く。
このアリスの長所であり欠点でもあるのは、"言霊"を使わないと解けないところ。
必然的に私しか解けないってこと。
まぁ、便利といえば便利なんだけど…。

「んー…」

「ちゃんと寝た?」

「おー寝た寝た。てゆーか朔那に眠らされた」

「「え。」」

「………」

蜜柑と流架がこっちに目を向け、棗は無言で向けてくる。

『翼が寝ないから仕方なくよ』

「俺が見張りするっつってんのに聞かねえんだもんよ」

『私はお昼に寝たって言ったでしょう。現にさっきまで寝てたわ』

「そうは言ってもよ…」

ああ、もう鬱陶しい。
翼に言い返そうとしたとき、フワリと感じた甘い匂い。

『……お酒?』

「あ?」

『お酒の匂い…翼と………流架?』

「え」

匂いの元をたどってみると、翼と流架だった。
だけど反応は二人とも正反対。
翼はあー…と遠い目をするし、流架は自分の服を嗅いでいた。

『流架、お酒飲んだの?でもお酒なんてどこから…』

「え、俺も覚えてない…」

二人で首をかしげていると、後ろから「朔那ー!」と助けを求めるような声が聞こえた。

『………何してるの?』

見れば棗が翼の方を思いっきり睨んでいるではないか。
予想外のことに聞いてみると、何でもねぇと流架の傍による棗。

『何したの…』

「俺がしたの前提かよっ!まぁ…大体は当たっててな……実は…」

話を聞けば、ペンギーの持ってきたあの葡萄はアルコール入りだったらしく、翼は蜜柑を引きよせ、流架は蜜柑に抱きついたらしい。

『………ご愁傷様。とりあえず二人とも頭は痛くない?』

「あ、うん。大丈夫」

「俺もだ」

『二日酔いはなさそうだし、とりあえず時間がないから行きましょう』

タイムリミットは今日の夜。

「さっさとヤツらの足跡見つけるぞ」







「棗、あんた顔色悪いで?大丈夫?」

私は一番先頭を歩いており、ふと後ろを歩いていた蜜柑の声が聞こえた。

「お前は顔が悪いぞ、大丈夫か」

「お前ってやつはー…」

なんて軽口を叩いているが、実際棗の顔色は悪かった。

『……棗?』

「大丈夫だ。心配すんな」

そうは言われても…昨夜のこともあるし、一応は注意しておこうか……。

「大体、Zがわざわざ危険な道を通ったとは思えない。あの一連の道を飛び越すワープ穴が道の始まりと終わりにある可能性大だよ」

『そうね…とりあえず今は昨日と同じ手掛かりしかないわけだし……』

急ぎましょう、と言おうとしたがそれを言う前に棗の横へと並ぶ。

『棗、平気なのよね?』

「あぁ…」

平気と言うが、既に彼は息を切らしていた。
翼を一瞥すると、翼はもう我慢できないとでも言うように棗を担ぎあげた。

「何す…っ!?」

『(あー…引っ掻かれるな、これは)』

「あーーーもう見てられっかよ!」

しかし、人一倍警戒心が強く頼ることをしない棗。
大人しく担がれている彼ではなく、案の定翼に蹴ったり殴ったりアリスで火をつけようとしていた。

「少しはこっちの言うこと聞けっつーの。
わっ何噛んでんのお前!?引っ掻くなって!猫かお前は!」

『猫…アリス祭を思い出すわぁ』

後で蛍から写真を購入し、その写真を部屋に飾っていることを思い出した。
そして、拒否されてるのに世話を焼く翼の優しさに、相変わらずだと朔那は口角をあげた。







『ここ…?』

「うん」

翼と棗のことからしばらく。
どうやら動物たちが火薬のにおいがする所を見つけてくれたようだ。
ちなみに後ろにいる翼はぼろぼろであり、棗は不機嫌で顔には怒りマークがあった。

『穴…と言うよりは、スキマね』

「でけーなー」

岩の表面に手を置き、中を覗くようにしている翼。
何も見えるわけないだろう、バカ…。

『翼、気をつけないと落とされるわよ』

「大丈夫だって…ん?…"落ちる"じゃなくてか?」

『"落ちる"じゃなくて』

忠告して早々、棗が翼の背を蹴った。そしてそのまま翼は重力に従い穴の中へ。

「ちょ、翼せんぱ…わっ!」

「佐倉!」

翼が落ちたことにより、蜜柑が慌てて穴を覗くが容赦なくその背を棗が蹴って穴へと落とす。

「行くぞ」

『ふふ、まだイラついてるんだ』

「うるせぇ」

『はいはい、行きましょ』

流架、棗と続き、私も入った。

『――…(水…?穴から水の中に出たの?)』

上から光がさしている。
足を動かして上へと上がる。

『…っは…』

「朔那!大丈夫か!」

『はぁ…平気。それにしても…これは…』

肺いっぱいに酸素を取り込み、辺りを見ると、全員が首から上を水面上に出していた。
全員が無事なのに安堵した。

「………?火山…!?」

浅瀬に泳いでいくと、無数の山から煙が出ていた。

「あれって火山口なん?」

「さあ…まぁ、そんなカンジじゃねぇかな。多分」

「こんな所にあいつら逃げ込んできたんー?」

『火山…ねぇ』

何か感じるこの違和感。頭の奥で危険ベルが鳴っている。

「でも火山なんて危ない場所のどこにあいつら…隠れる所あらへんのに……」

「うーん…どう探すかだよなー…。動物たちは煙で鼻利かねーだろうし…」

『っ…』

「…朔那?おい、どうした」

「朔那ちゃん?」

頭が急に痛み出した。
割れそうなほどの痛みに耐えられず、足から力が抜け、前に倒れそうになる。

「おい、朔那!」

『なつめ…』

だけど、衝撃は来なくて。
どうやら棗が受け止めてくれたようだ。
だけど、頭の痛みはひかない。

「朔那、どうしたんだ?」

『あたま…痛…』

「頭痛?さっきまでなかったよな…。急にか?」

話すのもしんどいので、弱々しく頷く。
……どこかで、ある。
この痛みの原因に……。

『…これ…「きゃーーーー!」…っ蜜柑…』

原因が分かり話そうとした途端にいきなりの蜜柑の叫びによって痛み倍増である。

「こ…っこんなところに虎がおるーー!」

「さ、佐倉…?」

「何だこの女頭わいたか?」

蜜柑は一緒についてきてしまった鹿を指差し、流架は耳を押さえながらうろたえ、棗は叫び声に不機嫌に。
そして翼は私と同じように耳がキーンとなったようだ。

「ルカぴょん何故にウサ耳モード!?」

「ちょっ佐倉…」

「翼先輩ペンギン親子ーーー!?」

「お前何言ってんの?」

「朔那ちゃん、何でベアの格好ーーー!?」

『………棗、ハイ』

「おう」

「棗、猫耳…っ」

「目ぇ覚めたか?」

「あ…あい…」

目を覚まさせるには衝撃が一番。ということで棗にそこにあった木の棒を手渡した。
幻を見せる幻覚香。

「この変うろつく奴は幻覚で錯乱させておっぱらおうって魂胆だろ。
てことは、あの火山口から誰かが意図的に煙を出して活火山に見せかけてるってことか…」

翼が手早く状況説明する。追っ払うなんて可愛いものならいいけれど、さっきの蜜柑のように仲間が虎なんていう動物になれば銃器を持った大人であればやることは決まっている。そこから仲間割れへと発展し、最悪の場合壊滅だ。
悪い大人の手口だ。

そこまでして近づかれたくないものが、あそこにはある。
より一層気を引き締めて火山へと向かう。







『……大丈夫?』

「は…はーい…」

只今、手足を壁に手足をついて穴を下りているところです。私以外の皆が。
何故かって?
私がこのくらいの高さ飛び降りれないとでも?

《ゴ…ゴ…》


「「わーーっ!」」

『あ』

……壁が広がったということは入ってきてもいいって意味かな…?
まぁとりあえずは皆の安全確認ね。

『おーい、大丈夫ー?』

「朔那ちゃーん!翼先輩がー!」

『翼?ちょっと待って、今降りる』

蜜柑退いてて、とその場から離れさせる。
穴に飛びおりてタンッと軽い音を立てて着地する。はずだった。

「ぎゃっ!」

『あ、ごめん』

そう、翼がつぶれていることを忘れていたのだ。
翼の背中に思いっきり飛び降りたことにより、翼の口から蛙がつぶれたような声がでた。

「朔那〜…お前わざとじゃねーだろうなー…」

『やだな、そんなわけあるじゃない』

「わざとかよっ!!」

冗談よ冗談、と笑うとジトリと睨んでくる翼。
うん、そろそろやめておこう。

『それより…予想的中ね』

床は白と黒のチェス盤。
目の前には…一つの扉。

「何ここ…部屋になってる」

「Zのアジト…」

「…だな」

上から蜜柑・翼・棗。
全員の視線は目の前の扉へと向かっている。

「俺たちがここに侵入したこと、奴ら…」

『バレてるでしょ。絶対』

「…だよな」

だって扉の上に目の形したカメラあるし。
Zも分かりやすい…もうちょっと隠せばいいのに。
おかげでコソコソせずに動けるけど。

「このドアから攻めるか。
あ、やっぱ鍵かかってる」

ガチャガチャと音をさせながら開けようとする翼。
棗はアリスで破壊しようとしたようだけど、調子が悪いのに使わせてはいけない。
それは翼も同じのようだ。

《ズン…》


「何!?」

「地面揺れてる…」

立っていられない、というほどではないけど、少しふらつく揺れ。
地震じゃない…。これは…。

『…っ…蜜柑…!』

「え」

私が振り向くと同時にガッと蜜柑の足元が崩れた。

「みかんっ」

「佐倉っ」

流架が手を伸ばすが、下は砂で蜜柑はその手を掴むことなく滑り落ちる。

『流架っ危ないっ…!』

流架も落ちそうになったところを翼が掴む。
その瞬間、蜜柑の髪がグイッと引っ張られた。

『な…っ蜜柑!』

蜜柑の髪を引っ張ったのは砂の中央から出る骸骨。
棗が身を乗り出して手を伸ばす。

「みかん!」

「…なっ」

『っ!くっ…そ…っ…!』

「朔那!?」

手を伸ばした棗を押しのけ蜜柑に手を伸ばしながら、アリスを使う。

『《流れを止めろ》』

"言霊のアリス"により少しだけ砂の流れが止まり、その間に落ちてゆく蜜柑の手を掴む。途端に止まっていた流れが動き出し、蜜柑もろとも砂の中に引きずり込まれてしまった。

『翼っ!必ず後から二人で行くから先に行って!』

「朔那…っ!」

暗くなってゆく視界の端で見えたのは、焦った顔をした棗だった。




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