時少。

□13
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櫻野達の協力を得られることとなり、いざ穴へと案内してもらおうと思えば、穴を開くには条件があり、それには夜まで待たないといけないらしいということで、一旦休憩。

『………』

「…朔那?顔色が悪いけど大丈夫か?」

『え、あぁ。少しアリスを使って疲れただけ…』

朔那の顔色が悪いのに気が付き、声をかけたのは殿。
椅子にぐったりと腰かける彼女を不思議に思ったのであろう。

「朔那ちゃん、ちょっと休んだ方がええんとちゃう?」

『だいじょうぶよ。ありがとう』

心配する蜜柑の言葉もむなしく、何を言っても聞かない朔那。
大丈夫だと本人は言っていても、蜜柑達の周りに張り巡らしたアリスが段々と効力を失ってきている。
それはつまり、朔那本人のアリスを持続させる体力がなくなってきているからだ。

「朔那、少し休んでろ。
お前、ここに潜入するとき、俺等にアリス使ってるだろ。それの疲れが出てんだ」

『大丈夫だって…』

「休んどけ。向こうで何があるのか分かんねえし、もし足手まといになるようなら行かせられねぇ」

厳しい言葉を投げかける殿。
それはぐっと言葉を詰まらせる朔那には丁度よかった。

『…分かったわよ。秀一、悪いけど…』

「構わないよ。奥の仮眠室を使って」

ありがとう、とヘニャリと笑い立とうとした。
だが、完全に立つ前に朔那の華奢な体は前に倒れた。

「おっ…、朔那っ!」

一人離れた椅子に座っていたため、近くには誰もいなかったので、そのまま体は床と衝突すると思われた。
しかし、床に倒れる前に誰かが支えた。

「………」

「棗っ。朔那は…っ」

「…大丈夫だ」

支えたのは棗。
体ごと受け止めた棗に駆けつけた流架は、朔那の様子を見て一息ついた。

「よかった。気を失ったのかな」

「…あぁ……部屋はどこだ」

「こっちだ」

安心する流架にフッと笑い、支える朔那の青白い顔を一瞥する。
棗の問いに答え、誘導したのは昴。
櫻野が棗が抱えている朔那を運ぼうとしたが、触るな、とでも言うように睨んだ。

「朔那を運ぶだけだよ」

「来い、こっちだ」

昴が開けていた扉を通ると、シンプルだが豪華な寝室。

「「(これで仮眠室…)」」

正直、スペシャルの棗の部屋と比べてもなんの遜色もない。
そればかりか、こちらのほうが上なのではないだろうか。

「棗、これって…朔那のじゃ…」

朔那をベッドに寝かせ、部屋を見回していた流架が棗に声をかける。
それに応え、棗も流架と同じ視線を向ける。
そこにあったのは、以前朔那の誕生日の時、流架と棗が贈ったブレスレットだった。
薄い青がかかった銀の鎖に、赤色の石が加工された安物のブレスレット。
それは色違いにと、朔那が2人にも贈ったものと同じものだ。
透明のケースに入っており、いかにも大切そうに置いてあった。

「なんでこんなところに…」

「朔那が大切なものだからここに置いておく、と言っていたものだ」

流架の呟きも同然の問いに、昴が答える。
その答えに、棗と流架は寝ている朔那の顔を見た。
自分達と同い年のはずなのに、どこか大人びた朔那。
頭のよさも、考えも、行動も及ばない。

「……朔那とお前らは何の関係がある」

「単なる友人だよ。付き合いの長い、ね」

「…こっちの部屋へ。
朔那が起きるといけない」

かすかに笑うと、蜜柑達のいる部屋へと誘導する櫻野。
棗は朔那の頬にかかった髪を払いのけ、流架とともに隣の部屋へと行く。
窓から届く太陽の光は明るく朔那を照らしていた。

「棗達っていつから朔那ちゃんとおるん?」

「え…確か、7歳ぐらい」

「ふーん、3人は一緒に学園に来たん?」

蜜柑の質問に流架は首を振った。

「ううん。俺等がここに来た時には、もう朔那はいたよ」

「え!?そうなん!?」

「うん。朔那がここに来た歳は教えてくれなかったけど、多分よーちゃんと同じくらいの頃にはいたって聞いたことがある」

少しうつむく流架に棗は朔那の寝る寝室に目を向ける。

「星階級のときもだけど、俺たちは朔那が話してくれるまで待つって決めた。だから聞かない」

「そうなんや…。
やったら、絶対に蛍の特効薬見つけて皆で聞こな!」

「なんでてめーも入ってんだよ」

「ええやんか別に!
うちも気になるんやもん!!」

賑やかに騒いでいたというのに、朔那が起きることなく夜を迎えた。







誰もいない、静まりかえった廊下に、数人の足音だけが響く。

「聞きたいことがある。穴はどこにつながっている?」

「…どこにでも。通る者の頭に、ある程度具体的に実在の行き先のイメージがあれば、どこにでも通じる。
穴はひとつ前に通った人間の出た場所くらいなら記憶しているから、キミたちが追っている人間の出た場所も自ずと分かるだろう」

「お前らの正体って…」

「聞かない約束じゃなかったか?」

肝心なところははぐらかされ、殿内はその考えの読めなさに汗を流した。

「あの…櫻野先輩。コイツはいつになったら起きるんすかね…」

肩越しに背中を見ると、そこには茶色の長い髪。
翼が背負っているのは未だ寝たきりの朔那だ。

「朔那は、アリス疲れで一度寝たら中々起きない。信頼のおける者と一緒にいたらなおさらだ」

"信頼のおける者"
それは、翼を差すのか、それともここにいる全員を差すのか。
どちらにしても、背負っている翼には、棗と流架からの穴があくほどの痛い視線が向けられていた。

「…それにしても、背負られても起きねえとか珍しいな」

それを口にしたのは殿内。
朔那は周りに敏感すぎるほど敏感で、人一倍警戒心が強い。
背負られようものなら、光の速さで飛び起き殴るほどだ。

「……到着だ」

櫻野が言った言葉に、一同は辺りを見回すが"穴"というそれらしきものは見当たらない。
櫻野は、少し古ぼけたノートを手にひとつの扉へと近寄った。
ノートから取り出した鍵を手に、何かを呟く櫻野。ガチャ、と鍵特有の音が鳴り、逆回転させた。

大きく、鼓動が波打つ。

「な…っ!?」

慌てる蜜柑達に動じることなく櫻野は鍵を差し込んだまま、何かを呟いていた。

「え…"穴"って…"鍵穴"…!?」

「急いで、この穴が開いている時間は約30秒ぐらいだ」

「えっ!でも、こんな穴にどうやってっ?」

疑問を蜜柑が口にするその間に近づいていた棗が鍵に吸い込まれた。

「後二十五秒」

櫻野が言う。
そんな短い時間、いきなりのことで戸惑う蜜柑だが、棗に続き流架が吸い込まれた。
目覚めない朔那をおぶっている翼は蜜柑を促す。

「俺等もいくぞっ!」

「チビッ!これ持ってけ!」

殿内が蜜柑に何かを差しだしながら呼びとめた。
それを蜜柑に投げてよこした。

「少しは役に立つはずだ!使い方は翼と朔那に聞け!
頼んだぞ、翼!朔那!」

寝ている朔那にも言ったのは、殿内の癖なのか…。
そして、穴に吸い込まれる瞬間、蜜柑が見た昴の表情…。

『…す、ば…る、?』





「――穴を通る際の衝撃で気を失ってたのか俺等。にしても、ここどこだよ」

寝起きの為、少しばかりボーッとしている翼。
近くでは流架がアリスを使って動物たちに居場所を聞いているようだが、手掛かりはなし。

「まぁ、どっちにしろ俺たちの猶予は明日の夜まで。
昼まで寝こけてたロスはかなりイテー。
今はとにかく、情報集めてヤツらの足跡を追うしかねぇな。
そのためにまず、」

グゥーーと蜜柑のお腹から音が鳴った。
緊張感を削がれ、まずは食料探しとなった。

「てゆうか、起きねぇな。朔那」

翼の言葉により、ハッと朔那を見る棗と流架。
衝撃でも起きないという朔那の状況。
金に近い茶色の瞳は、固く閉じられていた。

「…朔那、大丈夫かな…」

流架の言葉が全員の胸に突き刺さる。

「…とりあえず、朔那が起きるのをここで待ってても仕方ねぇ。進むぞ」

朔那のことを頭の片隅に置きながらも、一同は進む。







「この木、石化のアリスが転移されてる……!」

一悶着あったものの、森を進んでいると動物や、銃を持った人までが石像になった道に気付いた。
木からヒュンヒュンと飛んでくる光線のようなものが放たれたそれが地面や花に当たると、またたく間に石と化した。

「め、石化のアリスをてんい…?」

「滅多に見かけねぇアリスなんだよ、石化メドゥーサのアリスなんて。しかも、アリスのコントロールが高度でなければ、物質に自分の能力の一部を転移するなんて出来ない。要するに…この山にはそれだけヤバめの敵が居るってことだよっ!」

「走れっ!」という翼の合図とともに、全員は駆け出した。
しかし、木は蜜柑達を標的と認識したようで、逃げる全員を光線が襲う。

「おい、影っ!」

「ああっ!?誰がハゲだコラァ!!」

「影踏んで木の行動止めろ、ハゲ」

「影だろうが、コラァ!第一こんな状況でやれっか!!」

それに足して、翼は朔那をおぶっている。
アリスを使おうとしても、発動するまでの間に朔那に攻撃が当たらないとも限らない。

「よせルカ!!」

棗が声をあげたのは、光線を避けた流架が蜜柑に当たり、蜜柑が抱えてたペンギーが放り投げ出されたのだ。
それを追う流架だが、ペンギーを庇う際に足に光線を食らった。

「あぶないっ!」

蜜柑が流架に覆いかぶさるが、それに続き光線が襲う。


――守りたい。


そんな想いが形になったのか…2人を眩い光が包み込んだ。





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