時少。

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「要!?」

「これ、友達」

入院していた要が帰ってきた。
と言っても1週間だけの仮退院らしい。

「久しぶり、朔那」

『久しぶり、要』

お互いに笑みを交わし、要は朔那を優しく撫でただけで別の場所に行ってしまった。
朔那もそれを気にしていないようで、紅茶の入ったカップを傾けた。
その様子を見ていた蜜柑が翼に耳打ちをした。

「翼先輩、朔那ちゃんと要先輩って仲悪いん?」

「逆だよ。仲良すぎ。あれがあいつらのコミュニケーション」

翼達のように駆け寄ることはしない朔那だが、要が北の森へ行くと言うと一緒についてきた。
そして何故か蛍や流架までもがいた。
要に甘えるようにしてすりよるベアに、蜜柑達は絶叫した。
翼や朔那はそんな彼女たちに哀れみの目を向けた。

「そこまで嫌かあのクマが」

『どれだけヒドイ目にあったのかしら…』

ベアに誘われるまま小屋に入る。
まるで人間が住むかのような造りだが、一体誰が作ったのか。

『ベア、お茶入れるの手伝うわ。水や火は大敵でしょう』

「………」

一応気を許しているのか、話せない代わりにちらりと一瞥するベア。
ポットを持つ朔那はそれにしても、と小屋を見渡した。
水道はなく井戸まで行かなくてはならず、さらにはコンロもないので暖炉でお湯を沸かすらしい。
さすが要の作った人形。人間に劣らない生活力である。

『(それでも、ベアには危険に変わりない…)』

いくら人間と変わらない動きをすると言っても人形であるため、水に濡れればふやけるし、火にあたればあっという間に燃えてしまう。
どうするか、と考えていると、小屋の扉を勢い良く開けて高等部の女性数人が入ってきた。
要のファンクラブである。

花やケーキ、ぬいぐるみ素材などを貢がれたり、溜まった課題をやってもらうなど尽くされたりと特別待遇な要に翼が目を細めていた。

美咲がお茶の追加をしようとすると、問題である水道、コンロがないことに気がついた。
要が水を汲んでくる、と立ち上がったことに朔那は何かに気づいたように笑った。

出ていこうとする要に心の声が聞こえるかのように電気・水道・ガスの要望が見え、あっという間に高等部のお姉さま方によって小屋が改造された。

「あいつ自分のウリを最大限に使いこなす術よく分かってるよなあ…」

『あれはもう才能よね』

「…てか、お姉さま方って何者?」

普通業者を呼ぶべきことを彼女たちだけでやり遂げてしまった。
要の視線は、物珍しそうに水道を触るベアへと優しく向けられていた。







「毎日見舞いに来る奴と遊んでやってんじゃねーよ」

『まったくだ』

「あはは…ごめんね」

付き合いがよすぎるため体調を崩した要の見舞いに朔那翼と共に来た。
笑顔を浮かべているものの咳が止まらない要の様子に朔那は浮かない顔をしていることに、要は手を伸ばして安心させるように微笑んだ。

「大丈夫だよ、朔那」

『……お前の大丈夫は信用できない』

「はは、ヒドイなあ」

笑顔を見せる要を一瞥し、朔那は口元を小さくゆるめた。
翼が窓辺に置いてある花に気がついた。
その花は4日連続で置いてあるもので、誰がいつ持ってきたのか分からないのだが、要は嬉しそうに頬を緩めていた。

『明日?』

「うん、予定より早いけど」

『……そう』

まだベッドから出られない要の部屋に本を持ち込んで読んでいた朔那は不意に告げられた内容に視線を手元に落とした。
傍から見れば本を読んでいるようにも思えるが、その手はページをめくらず、瞳もどこか遠くを見ていた。

「朔那、何かあったら遊びに来てくれていいからね」

『…どういう意味?』

「君は一人で背負い込みすぎるから」

おいで、と要は朔那を手招きして上体だけを起こすそのベッドの端に腰掛けさせると、白く柔らかい頬に手をすべらせる。
純真無垢そうな琥珀色の瞳に反して、自分たちが知らないところで壮絶なことを知っていて、行動している小さな少女。自分や自分の幼馴染が無条件で守りたいと願ってやまない大切な少女。
一人で背負うなと言っても聞かないことなんて十分知っている。自分は助けたいと思っても自由のきかない身体であるため、ならせめて、心だけでも助けになるようにと願って。

「いつでもおいで。朔那なら大歓迎だよ」

『……頼りにしてるよ、要』

ふ、と心を見透かしたように笑って、自分が欲しい言葉をくれた。これじゃ、どっちが助けられてるのか分かりやしない。
苦笑に似た笑みを浮かべて、額に祈りをこめてキスを贈った。





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(加筆・修正:2014/08/11)

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