時少。

□08
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「後夜祭のダンスパーティーで、ラストダンス踊った者同士が結ばれるって伝説知ってる?」

閉会式が終わった次の日には、アリス祭を締めくくる"後夜祭"が行われる。
その後夜祭には"ラストダンス"というものがあり、先ほどクラスの女の子たちが話していた伝説がある。
蜜柑や蛍は興味がなさそうだが。
私も興味はない…が、私や蜜柑たちのような子は少数派のようだ。
たかがジンクス、されどジンクス。

「如月さん!!」
「どこに行った!?」
「あっち行ってみるぞ!」

ラストダンスの申し込みのために追ってくる男子生徒から逃げている。
正確には逃げていた。

『本当に助かった…』

「朔那も大変だね」

逃げていたところを秀一、昴に助けられて幹部室にいる。

秀一は苦笑を浮かべているが、"も"ってことはこの二人も逃亡中ということだ。

流石は生徒の憧れの的。
ちなみに教室の話が分かるのはアリスのおかげ。
アリスは使う人次第で色々使い方が広がるものだ。





「ねぇ棗君、流架君」
「今日のラストダンス、誰と踊るのかもう決めてる?」

教室では中等部の先輩方に囲まれ、ダンスの誘いを受けている棗と流架がいた。
棗は機嫌が悪いのか、イラついており、流架は囲まれているのに困っているという正反対な反応。
その集まりに蜜柑は驚くが、腹立たしいという態度を隠さない正田スミレが答えた。

「棗君は元々陰ながら人気あるのよ。
あの子達ちょっと前までは棗君のこと怖がって2人を陰ながら見てた奴らばっかだったのに。
ここ最近の棗君の空気がやわらかくなったって評判でいきなりずーずーしい奴急増よ!
それに加えて昨日の劇!中等部にまでヌケガケして"彼女になりたーい"な奴らがでてきて、とりしまるの大変なんだから。
近づいていいのは朔那様だけだっつのーにっ!」

「そういや朔那ちゃんどうしたん?」

スミレからの名前が出てきて、いつもは棗達の側にいるいないことに気付いた蜜柑は辺りを見回して首を傾げた。

「朔那様はどこかに避難しているはずよ。
毎年凄い数の人にラストダンスの申し込みにで追われてるのよ」

「へ、へぇ…大変やな、朔那ちゃん」

顔が引きつる蜜柑に爆弾のような質問が。

「蜜柑ちゃんは誰と踊るのー?」
「もしかして流架くん!?」
「だって昨日の白雪姫・王子様コンビだし、キスまでしちゃった仲だしー!」

それを聞いた蜜柑の顔が赤くなった。
慌てて弁解をする蜜柑だが、その様子が益々怪しいと感じる女子生徒や心読みとキツネ目が問い詰める。
話を聞いていた流架の顔もほんのり赤い。
それを聞いて黙っていなかったのが、棗と流架のファンのお姉さま方である。

「ねぇ…あの子って昨日の劇の王子役の…?」
「棗君のバートナーになったとかいう新入生の子でしょ」

そのざわめきを筆頭に、徐々に人数も増えた。

「まさかあの子と踊る約束してるとか?」
「てか言うほど可愛くないよね」
「確かに、あの子なら朔那の方が可愛いわ」
「ていうか比べるまでもないでしょ」
「朔那と棗君って付き合ってる?」
「え?あの子、前に総代表の櫻野先輩と付き合ってるって噂聞いたよ?」

食いついた初等部B組は一斉に耳を大きくした。
蜜柑に至っては"可愛くない"と言われているのに気付かない。
あの棗でさえ耳を傾けている。

「先輩方、その話詳しく聞かせてもらっても?」

笑いを浮かべながら聞く蛍。
秀才で美少女と有名な蛍だが、それよりも有名なのが朔那だ。

「嫌よ。朔那の情報なんて話さないわ」

その後ろで頷いている先輩方。蛍が別の人に聞いても話さない。
朔那の影響力と顔の広さを実感した。
一方、未だに追いかけてくる足音がするため幹部室から出られない3人。
後夜祭で舞台にたつ3人にとっては迷惑なだけである。

「後夜祭って野外立食パーティーなんやね」

「もうすぐしたらキャンプファイヤー囲んでダンス始まんだよ。あ、朔那」

「え!どこ!?」

あそこ、と翼が指をさす方向には櫻野と今井の二人の側に立つ朔那の姿があった。

「あれ、朔那ちゃんだけドレス違う!」

「あー、朔那のは特別なんだよ。今年は久々だな。お、こっち来るぞ」

櫻野と今井二人から離れてこちらに歩いてくる朔那は蜜柑や翼を見つけると柔らかく笑った。

「もういいのか?」

『久しぶりに仕事して疲れだろうから今日はもういいみたい』

「……相変わらず過保護だなー」

『そのおかげで休ませてもらってるから何も言えないわ』

翼と会話している今でも、蜜柑たちはそわそわと落ち着かない。
その様子を不思議に思い尋ねようとすると、朔那は知人に話しかけられ、そのまま人混みに消えてしまった。

「こっちも相変わらずの人気ぶりだなー」

「なぁなぁ、翼先輩!」

高等部の知り合いとともに消えた朔那に視線を向けていると、蜜柑が俺を呼んだ。
いつの間にか棗と流架ぴょんもおり、どうした、と尋ねると蜜柑は俺に信じられない発言をした。

「朔那ちゃんと櫻野先輩って付き合っとるん!?」

「はあ!?」

驚いたのはオレだけではない。テーブルのご馳走を食っていた美咲もである。
驚かないほうがおかしいその質問に、オレと美咲は顔を見合わせた。

「その話どこで聞いたんだ?」

「えっとな、中等部の先輩たちが言っとった。詳しく聞こうとしても教えてくれんかってん」

「それで本当なの?朔那とあの総代表が付き合ってるって」

「いや、そんな話は聞いてないな」

「そうだなー。朔那なら話すだろうし。まぁそれらしい行動はあったけどな」

え、と美咲を見るとピンと指を一本立てた。

「ほら、櫻野先輩ってさ、朔那にはなんか優しかっただろ?」

「ああ、確かにな。後夜祭のあのドレス手配したの櫻野先輩だってゆーしな」

「え!?そーなん!?」

「あとほら、後夜祭のラストダンスとかも。
たまに櫻野先輩と今井先輩のどっちかと踊ってたしな」

「ああ!あった、あった」

次々と出てくる付き合ってる証拠とも取れることに、チビたちは唖然としている。
あの棗さえも目を見開いて驚いていた。

「朔那ちゃんて、もしかして凄い人…?」

「……まーな」

こいつらは幹部生だから、と勘違いしているようだが、朔那がここまであの人達に待遇されているのは多分そうじゃない。
オレたちは朔那が5歳のころから一緒にいるが、あいつが何者か、そういう肝心な部分は全く知らない。
あいつは変なところで繊細すぎるほど繊細で、優しすぎるほど優しい。
だから、オレたちに話さないのは余計な心配をさせるとでも思っているのだろう。

「10歳のガキが何を気にしてんだかなー」

10歳のガキ。
たった10年しか生きてない子供なのだ。それなのにら、何故あいつはああも大人びているのか。



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