時少。
□05
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「すっごーい技術系!体質系&特力とは規模が大違い!人や建物がいっぱーい!」
技術系ブースに来た途端に蜜柑は大はしゃぎ。流架が落ち着くように宥めても、その声は届いていないようだ。
「わーっ!何ここ、何ここ!?」
『岬先生の"ボタニカル・パーク"。
岬先生や植物系のアリスを持つ生徒が育てた花とかを展示してるのよ』
「へー!ってわー!ぎゃー!すごーい!」
"歩く花"の指示で色を変えて文字を創りだす"カメレオン花郡"に、怪談をしたがる"柳"、"マシンガンひまわり"に"踊る野菜"たちに蜜柑のテンションは最高潮。
そんな彼女に棗がキレないわけがなく。
技術系販売"コケコッコビスケット"を一つ、蜜柑の口へと放り込む。
「こけーーー!?(うちの口がーー!)」
「奴隷の身分忘れてハシャいでんじゃねーよボケ」
「コ、コケー…!」
『ご愁傷様です、蜜柑』
私に助けを求めてきた蜜柑だが、少し大人しくした方が蜜柑のためと思ったので放置。
「次、どこ行く?」
「うん、えっと…」
大人しくなった蜜柑は流架と棗の荷物持ち。棗は私の分も持たせろというけれど、蜜柑は私の奴隷ではないので遠慮させてもらった。
戸惑う流架も、棗の機嫌が悪くなるのを避けたいのか、棗を咎めることはしなかった。
歩いていると、友人から寄っていくようにと約束したお店が見えたので、少し抜けさせてもらい、後で待ち合わせすることに。
その際に棗と流架の二人に「気をつけろ」と忠告されたのだが、迷うほど鈍くさくないと反論すると二人そろって黙ってしまった。
疑問を抱きつる商店へ入る。
やはりここでも興味深いものはたくさんあり、目で楽しんでいると蛍のお店が見えた。そこへ近づくあの三人の姿が見え、ポロリと言葉が漏れた。
『何をしてるんだ…あの子ら…』
蛍に助けを求めようとした蜜柑は蛍の巨大メカによって吹き飛ばされた。
ハイテンションな司会役に合わせて二本足のブタ型から鳥へとチェンジしたメカは、東の森へと羽ばたいた。
その様子を蛍のファンの金持ち達が入札しようとするが、それを買ってどうする気だと問いたいのは私だけだろうか。
店を出て合流しようとすると、誰かに腕を掴まれた。
振り向くと、スーツを着た男性が目を見開いて立っていた。
「すまない、君はもしかして…?」
『…急いでるので失礼します』
その先を聞きたくなくて、掴まれている腕を振り払って駆け出した。
ああ、嫌なことを思い出した。
早く三人に追いつかないと、と無理やり意識を切り替えて、振り切るように足を動かした。
三人の側には正田スミレちゃんがいて、何やら話し込んでいる様子。
「朔那様!昨日は大丈夫でしたか!?」
『うん、心配かけてごめんね?』
「とんでもありません!私はこれで!」
途端に赤くなってキャー!と言いながら去っていく正田さん。なんだったんだろうか。
「おい、顔色悪いぞ」
『え……そう、かな。お腹空いただけかも。早く行こ』
棗に指摘されてドキっとした。
これ以上つつかれないために棗の手を引いて前を歩く。
……何で、わかったんだろう。
「あー蜜柑ちゃーん」
「アンナちゃん!」
「ウエイトレス兼ケーキ職人なのー。
私のケーキ食べてってー!」
「わー!」
ウエイトレスも兼任するということもあり、接客向けにもデザインされた衣装に身を包んだアンナちゃんはとても可愛いかった。
「よってこーよー」
流架に子犬の如き目を向ける蜜柑は知恵を付け始めたようだ。
棗が流架の意見を尊重することを学んだみたい。
結局、流架の負けでそのお店に入ることに。
私は何か食べられたらそれでいいんだけど。
「アンナちゃんのアリスって料理を作ると変わったものが出来てしまうアリスなんやって、知ってた?」
「知ってる」
『そうなると一体どんなのが来るのか怖いわね…』
「おまたせー」
周りに花を振り撒きながら可愛い笑顔で持ってきてくれたそのケーキは何かグツグツと煮えたぎるような音を出していた。
「アンナのお勧め"クイーン&ミラクルパイ"だよー」
「わーっおいしそー!」
『(え……食べれるのかコレ)』
横のテーブルの人が顔を青くさせていたのを見てしまった。
……本当に食べるのか、これ。
「"トロピカルティー"と一緒にどうぞー」
じょぼぼぼ、とカップにお茶を注ぐアンナちゃん。
棗もケーキを刺したフォークを見つめていた。目を合わせて、同じタイミングで一口かじってみた。
「ヒャ〜ヒャッヒャッヒャ!喰っちまいやがったよぅ〜こいつぅ〜これでお腹はピーヒャララ〜」
何だこいつ。
ケーキから角の生えた変な物体が出てきた。何か腹立つな。フォークでつついてみると「何しやがんだ〜」と間延びした声で睨まれた。
どうやらこのケーキは腐っているようだ。
さすがはアリス。全部食べる前に警告してくれるとは。
それでも食べるのは避けたほうがいいだろうと、食べようとする蜜柑たちを止めるために身を乗り出すが、その前に棗がティーポットのお茶をぶちまけた。
憤慨する蜜柑に、「まずい」と一言を零す棗に頭をかかえる。
端的すぎるその物言いはいただけない。
泣き出してしまったアンナちゃんに、蜜柑が怒鳴る。
「この…謝れバカーー!
アンナちゃんとウチとルカぴょんと朔那ちゃんに謝れっ!」
私は別にいいんだけど…。
蜜柑を一瞥した棗は何も言わずに店を出てしまった。
唖然とする流架に追いかける胸を伝えて、私もカラン、とベルを鳴らして店を出た。
さて、あの素直じゃない子はどこに行ったのだろうか。
▽
『みーつけた』
「……朔那かよ」
『流架の方が良かった?』
「別に」
笑いを零すと睨まれてしまったので、笑いを止めて棗の横に並んで座る。
木の下は太陽を遮って木陰を作り出していた。
秋になりかけの風が髪を揺らし、静かなこの空間はとても心地よいものだった。
『棗、お腹は大丈夫?さっきのケーキ、やっぱり腐ってたみたい』
「…お前は」
『私はちょっと囓っただけだし。
棗はもう少し物言いを考えないと。いらない誤解を生むよ』
「興味ない」
『(…まったく)』
てんで人の忠告を聞かない。
誤解は余計な火種となる可能性が高いというのに。
「なんでここに来たんだよ」
『棗が一人で寂しい思いをしないように』
「……馬鹿か」
『あ、ひどいな』
軽口を叩いていると、ようやく棗が笑ったのでホッとする。
棗は誰よりも優しいのに、多くの人が分かっていないことが悔しい。
『棗、何かあったら言ってね。出来ることなら力になるから』
「……こっちのセリフだ。オレの任務を勝手にやりやがって。無茶しすぎなんだよ」
『(バレてたか…)』
バレているとは思っていたけど、こんなに早いとは思わなかった。
そこはさすがというべきか。苦笑を零すと赤い瞳で睨まれてしまい、肩をすくめる。
『時間が余ってるのよ。仕事の選定は向こうに任せてあるわ。
それに、私がした方が確実よ。怪我もしないしね』
任務で怪我をすると、それだけ流架を心配させてしまう。
それが棗の一番のネック。
だから彼はいつも無傷で終わらせようとするけれど、いつも上手くいくとは限らない。
それなら、私がやったほうが時間短縮にもなるし、確実だ。
『棗、私は守られるほど弱くないよ。
だから、私のことは気にしないで。私のことより、優先すべきことがあるでしょう?』
「っ!な、」
「棗ー!朔那ちゃーん!」
蜜柑と流架が駆けてきたことにより、棗は開きかけた口を閉じた。
駆けてきた流架がやけに嬉しそうな顔をしていたので、尋ねてみると照れたように口を開く。
「前話した、オレの夢のこと覚えてる?」
『もちろん。忘れるわけないよ、流架の優しい夢のことだもの』
獣医になって動物の暮らしやすい場所で、皆で楽しく過ごすこと。
流架らしくってぴったりだと素直に思ったことが記憶にある。
それがどうかしたかと言うと、蜜柑も笑わずにいい夢だと言ってくれたと照れるように笑った。
『二人も来たことだし、棗も行こう』
ちらりと私の顔を見たあと、仕方ないとでも言うように息を吐いて立ち上がって歩き出した棗に頬が緩む。
技術系に向かう途中、潜在系に行くことを思い出した。
三人に謝罪してから、潜在系のブースへと向かう。
潜在系はアトラクションが多い。興味をそそられるものも多いが、先に誘われた"ピーター・フライング"へと足を運ぶ。
受付にいた友人に挨拶を交わすと、優先的に中へと入れてくれた。
ピーターパンの格好に扮したフライングのアリスと一緒に飛ぶ。ロンドンに見立てた街も造りが凝っていて中々楽しかった。
別れを告げて次はどこに行こうかと思案していると、キャーキャーと騒ぐ聞き覚えのある声に振り向く。
予想通り、あの3人だった。
丁度棗が例のビスケットを片手に脅して蜜柑を静かにさせたところだ。
「あれ、朔那」
『技術系にいたんじゃなかったのね』
「委員長のお化け屋敷に行くんや!朔那ちゃんも一緒に行こー!」
「行くぞ」
『え、ちょ』
腕を掴まれ問答無用で連れて行かれる。
拒否権はなしですか。そうですか。
「あ、あれじゃないか、お化け屋敷」
流架を先導にしていくと、雰囲気たっぷりの洋館が。
そこから二人で支え合いながら出てきた中等部生は泣きながら怯えていた。
「ここって主に委員長の幻覚とかで人を怖がらしてんびよな…?」
あの癒し顔からは想像が出来ずに思わず黙る。
そこへ疑惑の委員長が笑顔でやってきた。優先的に入らせてくれるよう手配してくれた彼はまた仕事場へもどらなければいけないようだ。
2日とも連投されているようで疲れた顔をしている。
『あまり無理しないようにね』
「うん!ありがとう朔那ちゃん」
中に入ってみると、真っ暗の中にロウソクの明かりがポツポツとあった。
さすがに歩きやすいように配慮はされているようだ。
先に流架を入れようとする蜜柑を棗が蹴ってしまった。それに苦笑しつつ踏み入れると扉が音を立てて閉まった。
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