時少。
□04
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アリス祭が始まった。正確には始まろうとしている。
今は総代表である櫻野秀一が開会の挨拶をしている。
昨日言われた通り、朔那は現在壇上の上で静音と昴に挟まれて座っていた。
結局、寮の部屋に戻ったのは夜遅くで、朔那はまだ棗達とは気まずいままである。
それを察してか、普通ならば年功序列順に棗と横に座るところを、櫻野が手配したのだ。
ふと、朔那が特力に目を向けると、翼達から軽く皆から手を振られたので、軽く笑っておく。そこにいたと思っていた蜜柑の姿がなく、そういえば、とつい先ほど櫻野が蜜柑を見かけたと言っていたのを思い出す。
転んでいるのを見つけたそうだ。
技術系を見ると、潜在系との間に蜜柑がいた。
どうしてそこにいるのか知らないが、蜜柑達がこちらを見た。
朔那は蜜柑達の方を向いていたので、必然的に目が合うことになり、思わず逸らす。
隣の昴にどうかしたかと聞かれ、何でもないと告げる。
数人を挟んで座る棗を見てみると、退屈そうにしていた。
櫻野の挨拶が終わり、アリス祭を開幕するテープを切るため、朔那は渡されたハサミを受け取り前に出る。
他の幹部と一斉に切るとシャキン、と少しずれた音とともにテープが重力に伴い落ちた。
《アリス祭の開幕です!!!》
朔那の沈んでいる心情などお構いなしにアリス祭は始まった。
▽
「朔那」
『今は何も問題はなし。大丈夫』
朔那の仕事は幹部室で"マリオネットのアリス"でアリス祭の会場全体で何か事故などがないか調べること。
時々休憩も兼ねて、櫻野や昴と昔の話をしながら話していた。
少しすると、櫻野が交代を言い渡した。
「今日はこっちは気にしないでいいから。気もそぞろのようだしね」
『…………分かった』
ためらったが渋々と了承し、幹部室を出た朔那はどうしようかと頭を唸らせた。
すると集団で行動していた知り合いの生徒達に声をかけられた。
「お、朔那じゃねーか。久しぶりだな」
「聞いたぞ。星階級が初等部のガキどもにバレたんだってな」
「気にすんなよ。俺等はバレた方がお前と話せるから嬉しいからな」
『ふふ、ありがとう』
話しかけてきたのは高等部の彼ら。
皆が初等部・中等部のころから知っている古い友人だ。
隠してる時はなるべく話しかけないようにして頼んでいたので、今の状況で声をかけてくれたのは、正直嬉しかった。
「あ、朔那。お前うちの店見て行けよ。なんか欲しい物あったらおごるぜ」
『本当?なら見て行こうかな』
「朔那ー、俺のとこにも来いよ。
潜在系の"ピーターフライング"。来たら優先してやるよ」
『分かった、後で必ず行くわ』
多方面からの誘いを受けつつ、まずは技術系にあるという彼のお店に向かった。
技術系のアリスをフル活用したショップでは、興味をそそられる商品がたくさんだ。
『コレとコレ』
「おまえ相変わらず高いの選ぶよな…。見る目あるっつーか」
『ダメならいいよ?』
「いいよ、誘ったのは俺等だしな。
その代わり今度情報よこせよ?」
『ありがと。情報はまた今度ね』
欲しいものを遠慮なくいただき、店をでる。
適当に歩いていると、どこかで見たことのある店が出ていた。
「朔那じゃない」
予想通り、蛍のお店だった。
その出店しているはずの本人は可愛らしくも動きやすそうな服を着て、今からどこかへ行くようだ。
『蛍…』
「……言っておくけど、あの子はともかくあたしはなんとも思っていないから」
『え…』
「それだけよ。今は何も聞かないであげる」
『……ありがとう、蛍』
蛍の何も聞かないでいてくれるその優しさに頬が緩んだ。
その瞬間、独特の音と一瞬の眩しい光。それがカメラだとわかるのに数秒を要した。
「これで黙ってたこと許してあげるわ。
いつかは聞かせてもらうから、そのつもりでいなさいよ」
ニヤリともとれる笑みを浮かべた蛍に、朔那は目を丸くしつつもクスクスと笑った。
彼女の優しさは、本当に彼に似ている。
蛍は今から自分で作った機械のショーのようだ。
何でもオークションのデモンストレーションも兼ねているとかで、大勢のVIP招待客である富豪たちが集まっているらしい。
相変わらず規模が違う蛍と別れ、朔那は少し軽くなった気持ちで蜜柑のいる特力に足を向けた。
▽
「―さ……い!!」
『ん?』
もうすぐ蜜柑達のいるRPGだと言う時に、何か叫び声が聞こえてきた。
少し歩調を速めると、そこには翼に抱きつく蜜柑の姿と、棗と流架と他数人。
『…何事?』
「お、朔那、来てくれたのか!」
一番に気付いた美咲の声で全員が一斉にこちらを向いた。
その視線に居心地の悪さを感じつつ、足をすすめる。
翼が蜜柑に抱きつかれながら、ヒラヒラと手を振って笑っていた。
「なあ朔那!俺の恰好どうだ?」
『一言で言うと犯罪の匂いがする』
「蜜柑のせいだろ、それは!」
そうじゃなくて!と叫ぶ翼に分かってる、と笑う。アラビア風のその衣装は翼にとてもよく似合っている。そのことを告げると照れたようにサンキュ、と笑った。
次に薄いベールをかぶった美咲を目に映し、正直感嘆した。
身体のラインが出るような衣装はとても魅力的だ。
『美咲、綺麗ね。でも男に気をつけてね』
「サンキュ。でも何で?」
『男はみんな狼って言うじゃない?』
特に帽子を被った抱きつかれている男とか。
少し小さな声で呟いた言葉は美咲には聞こえなかったようだが、翼はギクリと肩を揺らした。
不思議に思ったのか首を傾げている美咲は三つ上だとは思えないほど可愛かった。
そして、後ろから凄い視線を送ってくる二人に覚悟を決めて顔を向き合わせた。
「朔那…」
『…二人とも…黙っててごめんなさい。
それと、心配かけたことも謝らないと…』
二人が昨日、遅くまで探してくれていたことを朔那は知っていた。しかし会わせる顔がなかったため、わざと帰る時間をずらしたのだ。
「……星階級」
『うん、本当は幹部生なの』
「何で…」
流架が理由を問おうとするが、曖昧に笑う朔那に問い詰めることができなかった。
「……わかった。待ってやる」
『ありがとう、二人とも』
二人は本当に踏み入ってほしくない時は、ちゃんと待ってくれる。
申し訳なさとが混ざり合ったお礼を告げると、名前を呼んで泣きそうなほどに顔を歪めている蜜柑と向き合った。
「朔那ちゃん……ごめん」
『え…蜜柑?』
私からごめん、と言おうとすると、先を越されてしまった。
謝るのはこっちだと言うと首を振って否定された。
「うち、朔那ちゃんのこと考えんと責めるようなこと…」
そんなことない、と言っても蜜柑は少し俯いたまま落ち込んでいる様子だ。
変なところで頑固なこの子は、どう言っても自分が悪いと否定しないだろう。
『蜜柑がよければ、仲直りしてくれる?』
「うん!」
ようやく笑顔が戻った蜜柑に自分も笑うと、どこからか「朔那だ」といることに気がついた一人が声をあげる。
それが引き金になり、棗と同じように周囲がざわつき、陰口か、と蜜柑や棗が身構える。
しかしそれは棗の時とは違った雰囲気で、喜びの声が上がる。
あっという間に朔那は囲まれた。
「朔那!開会式みたぞ!
久しぶりに見たな、幹部生の朔那」
「相変わらず総代表達に囲まれてたな!」
『ははー…(蜜柑…大丈夫かな…)』
朔那の近くにいた蜜柑はその人間サークルに巻き込まれ、中等部の生徒たちに邪魔物扱いをされ、その輪の外でつぶされたところを翼に助けてもらっていた。
「おーい、蜜柑大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫…やけど、すごいなー朔那ちゃん」
「あー…朔那はかなり前から学園にいるからなぁ。
結構中等部とか高等部にも知り合いが多いんだよ」
しかもあの顔だから、と指差す翼に納得する初等部組。
同じ扱いをされると思っていた棗でさえ驚いたようだ。
囲まれている朔那は一人ひとりの質問に丁寧に答えるため、待っていたが終わりそうもなく、棗達は朔那を待つ間に特力のRPGに参加した。
朔那がようやく解放されたころ、辺りには棗達の姿はなかった。
放置されたのかと息を吐き、ゴールの方面に向かう。恐らく待っている間にゲームに参加したのだろう。
するとおめでとー!という声が微かに聞こえてきた。
到着すれば、蜜柑が泣いていた。悔し涙のようだ。
理由を聞けば、結構長い話しだったので省略。
『えー…と?つまりは棗がRPGに参加して、選ばれたランプが翼だと思ったら蜜柑だった、と』
「省略しずぎだろ」
『説明面倒』
翼に泣きついていた蜜柑が今度は朔那に抱きついた。
どうやら棗は相当ヒドイ手を使って攻略したようだ。
「朔那ちゃーん…!棗がー!」
『こればっかりは仕方ないから…私も一緒に回っていい?』
泣いて縋る蜜柑を哀れに思ってしまい、棗と流架に許可をとって三人に同行することに。
さて出発と行く時、翼が引き止めた。
「お前やらねーのか?」
『んーどしようかな。私すぐにゴールしそうだけど』
どうせなら翼を奴隷にしようかな…。
声に出さずに思っていると、翼が急に大人しくなって行ってらっしゃい、と手を振った。
後で知ったが、心読みが伝えたらしい。
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(修正:2013/12/15)