時少。

□ドッジボールで仲直り。
1ページ/1ページ



『……ドッジボール?するの?』
「う、うん……」

サボタージュから教室に戻れば、なぜか誰もおらず、不思議に思い探してみるとグラウンドに集まっていた。狼狽えている委員長を捕まえて事情を聞いてみれば、何でも中等部の先輩のアドバイスから発展してしまったようだ。

『(中等部でこんなアドバイスするっていったら…翼か)
それはまた……それにしても人数に随分と差があるようだけど……』

転入生佐倉蜜柑vsクラスのボス棗という図式だろうか。あとはそれに付随する子たち、というチーム分け。なんてアンフェア。
と思っていたら流架が佐倉蜜柑のチームに捕まったことで棗のやる気が燃えている。
自分は傍観を決め込もうかと思っていると、佐倉蜜柑と目が合ってしまった。

「如月さんっ!こっちのチーム入って〜!」
「お前ずりぃぞ!」
『……いや、えーっと、私は見学しようかと…』
「おねがーい!クラスみんなで仲良くしたいねん!」

目的が目的なだけに、これは断りづらくなってしまった。
棗のチームに入る気もなかったが、ここまで頼まれてしまうと頷くしかなかった。

『怪我に気をつけてね、流架』
「朔那、こっちにきて大丈夫なの?」
『どうして?』
「棗と同じチームじゃなくてよかったの?」
『棗と同じチームになる約束もしてないし、何も言われてないから平気だよ』

ばちっ、と棗と目が合ったため笑ってみると、眉間にシワを寄せて不機嫌そうな顔をされた。
向こうのチームはこてんぱんにしたかったが、私と流架がいることでそれができないと気まずそうだ。
ゲームがスタートすると、前で流架と佐倉蜜柑が何やら話している。
と思ったら佐倉蜜柑の後頭部にボールが叩きつけられ、勢いあまって首が取れた。

『うん、機嫌の悪さ最高潮』

目が据わっている棗に対して佐倉蜜柑のやる気がみなぎった。
そのお陰か、佐倉蜜柑が二人連続で人数を減らした。どうやら彼女の運動神経はいい方らしい。
しかし、しばらくすると雲行きが怪しくなってきた。
ボールが不自然に曲がったり何もないところで転ぶ、なんてことはこの学園においてはアリスを使えばなんてことない。

『あらら』

確かルールではアリスの使用は即アウトのはず。棗に目をやると合った瞬間に逸らされた。無干渉を決め込むようだ。

「あやしいわね」
「誰だよお前…」
『(今井さんもせっかくの美少女なのに……)』

顔全体をすっぽり覆うヘルメットが隣にあって少し驚いた。
変人ながらさすが天才。すでにアリス使用に気づいている。
このまま続くようなら止めさせなおとなー、と思っていると。

「あははいちごパンツー!」

今度は佐倉蜜柑の動揺を誘う作戦に出たようだ。
佐倉蜜柑がムキになって言い返す合間に誰かの合いの手が入った。

「この女はもうパンツの中見られてんだぞ」
『……は?』

誰もが発言者の棗に目を向ける。
舌を出してバカにする棗に佐倉蜜柑の怒りが爆発した。思い切り投げるものの念力のアリスでカーブし、返ってきたボールは運悪くヘルメットを脱いでいた今井蛍の顔に直撃した。

『冷やさないと……大丈夫?』
「ええ。それより…」

顔を冷やすため棄権となった今井蛍の視線は見るからに落ち込んでいる佐倉蜜柑に向かっていた。
気にしていることを気にかける二人の関係性は、とても眩しく思えた。
落ち込んでいた佐倉蜜柑は流架と委員長の励ましで復活していた。
へこまないのが彼女の長所のようだ。

「朔那、オレ……」
『うん、分かってるよ流架』

勝ちたい、とやる気を出す流架は佐倉蜜柑に感化されてきている。それはいい傾向だと素直に思う。
徐々にチームだけでなく、相手の方までいい空気に変わってきた。
アリスによる不正は気がつけばなくなっていて、コートの外に倒れる人の山が築かれていた。

『(ああ、仕返しは3倍ってことね)』

今井蛍自作の道具を使って一人一人の違反者を仕留める様子は勇ましかった。
そのうちチャイムが鳴り、3対3でエンドレスの勝負に終わりを告げた。
朔那はしばらく避けるだけで当たらないという貢献をしていたが、飽きたのか疲れたのか、当たって外野に移動していた。

『流架、大丈夫?』

手足を投げ出してつぶれている流架に息切れひとつしていない朔那が顔をのぞきこむ。

「うん……あれ、棗は?」
「棗さんなら喉乾いたって、水のみに…」
『じゃあすぐ戻ってくるかな』

うーん、行くなら誘ってくれてもいいのにと考えて、チームに入らなかったことを拗ねているのだろうかと考える。
でも棗が流架ならともかく、私にそんなことで怒るのも変だし、と考えたところで思考を放棄した。
考えたところで答えがでない。

『……とりあえず、作戦成功ってところかな』

あんなにバラバラだったクラスが、今は一緒に笑い合っている。
ドッジボール効果もあるが、そのきっかけと行動を起こしたのは佐倉蜜柑だ。
悪環境だろうと、自分でその壁を体当たりで破る彼女は眩しいくらいだった。

「如月さん!一緒に戦ってくれてありがとうな!」
『朔那って呼んでくれていいわ。名字で呼ばれるの好きじゃないの』
「じゃあ朔那ちゃんやなっ!うちも蜜柑って呼んで!」
『……蜜柑…ステキな名前ね』

名前に込められた響きと想いが言霊をつたって伝わってくる。
照れ笑いを見せる蜜柑にそっと目を細めた。



ドッジボールで仲直り。



2017.10.23



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ