時少。
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野田のアリスにより時空間にきた蜜柑たちは、母・安積柚香と父・行平泉水の過去を遡っていた。
二人の出会いから巡っていくと、度々高校長の姿も出てくる。
泉水が学園に来た当初の高校長の印象が凄まじかったが、その高校長の横に見覚えのある少女の姿があった。
「のだっち……あの横におる女の子って…」
「え……!?」
高校長の横にいる初等部の制服を身にまとった、琥珀色の髪と整った端正な顔は正に朔那だった。
「いえ…そんなまさか…如月さんがこの時代にいるなんて…」
野田も驚きが隠せないようだ。
時空の窓からその小さな朔那を見つめる棗が、違和感に気がついた。
朔那の浮かべる笑顔が、いつもの朔那とは違うのだ。彼女が浮かべるのは、達観したような、落ち着いた笑み。
だけどあの朔那は無邪気な子供のように笑う。まるで蜜柑のように。
「ん?一兄、そいつ…」
「ああ。紹介する。朔那だ。養子に迎えた私の娘だ」
「…………娘ぇ!?」
驚く泉水と同様に蜜柑たちも驚きに口がふさがらない。
一巳に手を引かれている朔那がじっと泉水を見つめる。
その視線は品定めするような大人のものではなく、純粋な子供のものであることに泉水はどういうことだと問い詰めるより前に朔那に視線を合わせるように膝を曲げた。
「よろしくな!朔那!」
「触るな馬鹿者」
「イッテ!」
頭を撫でようとした泉水の手をピシャリと叩いた一巳の大人気ない行動に、朔那はクスクスと笑った。
「うおー!なんだやっべえ、可愛い!」
「当たり前だろう。私の娘だ」
「一兄の娘ってことは俺の娘ってことでいいよな!?」
どういう理屈でそうなったのか。
泉水の言葉に一巳が怒って詰め寄った。
そんな二人の掛け合いにまたもや口を手で隠して肩を震わせる朔那を、蜜柑達は目を丸くして見ていた。
「朔那ちゃんが、高校長の娘って……え!?」
「うるさいわよ蜜柑。
とりあえず見ていれば解ることよ」
動揺を顕にする蜜柑の頭を殴りつけて、蛍は窓の外を見つめていた。
高等部校長室にて、一巳の仕事の邪魔をしないようにソファで本を開いている朔那の耳に、電話のコール音が聞こえた。
仕事の電話かと思ったが、次に聞こえてきたのは神野の叫び声だった。
一瞬にして電話線を抜いた一巳に駆け寄った朔那は何事かと首を傾げた。
「泉水の苦情だ」
納得した朔那が思い浮かべるのは、今日の就任式と一週間前のこと。
今日の就任式では、本来ならば堅苦しい挨拶を述べる必要があるのだが、あろうことか歌いだした泉水に中等部校長の冷たい視線が突き刺さる。
そして泉水が学園にやってきた初日、探索したいという泉水が迷わないよう案内をしてやってくれと一巳に頼まれた。
その途中でクラスメイトの安積柚香の脱走現場と遭遇したのだ。
ひと悶着したあと、キレた泉水が梯子ごと連行してしまった泉水の行動には大いに笑ったものだ。
『泉水、楽しい人だから好き』
「ならいいが……フォローをする身にもなってほしいものだ」
養子とはいえ目に入れても痛くないというほど可愛がる朔那の頭を一巳は優しく撫でた。
「そういえば、クラスメイトの脱走常習犯の安積柚香はどうだ」
『柚香……優しい子だから、ちょっと心配』
様子を見てくる、と部屋を出た朔那の姿が見えなくなると、一巳は微笑ましげに目を細めた。
▽
バチッと弾けるような音がした。
それが塀の電流結界だと気がついたときには、嫌な汗が背中を伝った。
走ると、火傷を負っている柚香が耐えるように泣いていた。
親から手紙が来ないから、きっと病気なのだと言う柚香がくたりと泉水にもたれかかった。
『泉水』
「朔那?どうした、こんなとこで」
『ん、柚香の様子見に来たの。
柚香、優しい子だから…怒らないでね』
「分かってるって。お前も優しいな」
柚香の顔を覗き込む朔那の髪をかき混ぜるようにして撫でた泉水は優しく笑った。
「初等部か…めんどうくせーけど、しゃーねーな。な、朔那」
『うん?』
意味のわからない同意を求められてとりあえず頷いた朔那は柚香を軽々と背にかかえて歩き出した泉水の後を追った。
「そういえば朔那はいつから一兄の娘になったんだ?」
『……8年前。私が2歳のとき』
「へー。まー細かい事情とかは気にしねーけどさ。俺の娘同然なんだから、なんかあったら相談しろよな」
事情を聞かずにあっさりと受け入れた泉水の言葉に朔那は嬉しそうに笑った。
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