時少。

□41
1ページ/3ページ




「志貴!」

「柚香、下がって」

守るように柚香を背にかばう志貴の目は、厳しく目の前にいる少女に向けられていた。

「いきなり何の用だ。如月朔那」

『………』

学園の制服を身にまとい、いきなり目の前に現れた。
初校長からの任務で来たのかと警戒するが、調べた情報によると彼女は任務の際は必ず目元を覆う仮面をつけるはずだった。
志貴の問いに答えずに、踵を返して走り去ろうとする朔那を、背中から飛び出した柚香が追いかけようとしたのを止める。

「志貴、行かないといけない気がするの。
あの子は何か知ってる」

言い終えたと同時に走り出した柚香を志貴も追いかける。
如月朔那という少女は速かった。風のように走り、気を抜けば見失ってしまうほどに身軽だ。
しかし、それでも見失わないのは彼女が度々こちらを肩ごしに振り返って待っているからだ。
まるで誘わているような気になって訝しむが、それでも二人は追いかけた。
しばらく走ったころ、崩れた瓦礫に寄りかかる学園の制服を着た男が、血をにじませて倒れていた。
その傍らに、息も乱さずに寄り添う朔那がいた。

「彼は…」

『任せてもいいだろうか』

ようやく開いた口から出てきた言葉に、二人は驚愕した。
過ぎたこととはいえ、以前自分たちに攻撃をしかけてきた人間に任せるだろうか。
その心情を察知したのか、朔那は不敵に口角を上げた。

『二人がそこまで信頼に値しない者だとは思っていない。むしろ逆だからこそ、任せるんだ』

「……貴女、一体…」

『ああ、そうか……一応ハジメマシテということになるのか』

Zのアジトで出会った時とは違う口調、そして何より彼女が纏う雰囲気が違うことに警戒心が消えない。
だが、二人は心のどこかで懐かしさを感じていた。あの時会ったからではない。
それよりもっと、ずいぶん前に会ったことのあるような…。

「朔那!」

「霜月、瑪瑙…!?」

ヒュンッ、と現れたのは少年姿ではなく本来の年齢である17歳の姿の瑪瑙だった。
おそらく柚香に埋められた瞬間移動のアリスだろう。

「あのガキ…失礼、日向棗は学園に戻ったみたいだよ」

『分かった』

「貴女…一体…」

瑪瑙と対等に、それ以上に従えるかのように話す朔那に柚香は怪訝な視線を向ける。それを気にした風もない朔那に志貴は以前調べて柚香には黙ったままの情報を口にした。

「"如月"朔那。君のことを調べた時から気になっていた。君と瑪瑙は親戚だね」

「正しくは婚約者だけどね」

『瑪瑙、少し黙れ。それで?私のことを調べて、何か成果はあったのか?』

「……いや…、ただ…君達の家のことくらいだ」

『それがわかれば、大したものだ。
それに私はただの生意気な子供。それ以上でもそれ以下でもない』

小学生の笑みとは思えぬ大人びた微笑を残して、朔那は瑪瑙の瞬間移動のアリスで消えてしまった。
残された柚香は、倒れている翼を抱えて志貴と共に、姿を消した。





蜜柑の部屋の窓に腰掛けた棗が見えなくなり小さく息を吐いた。
自分を責めて泣いているような気がしたのだが、棗に先を越されたようだ。

「いいの?朔那」

『何を心配してるのか、聞こうか?』

「分かってるならいいよ。わざわざ言わせるあたり、性格悪くなったよね」

『ありがとう、瑪瑙。だけど、今は悩むくらいなら少しでも動きたいから』

「仰せのままに」

恭しく手を差し出してくる瑪瑙に小さく苦笑して手を取る。
移動する間際、少しだけ後ろを振り向くと、窓から飛び降りた棗と目があったような気がした。




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ