Short book

□いちほ様
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オレの日課になったことが一つある。


「フリのやつ最近よくケータイいじってんな」
「彼女でもできたんですかね」


練習が終わってすぐ、一年は片付けに入る。だけど気になるのはケータイで、チラチラ見ているのに気づかれたのか主将に怒られた。
気ぃ抜いてんじゃねえ、って。

入学当初よりも数倍早く動いて片付けを終わらして、着替えるのももどかしくてケータイを開いてメールの確認。
新着メールの問い合わせをしても何もないことに肩を落とした。


「降旗ー帰ろうぜー」
「ああ、うん」


同じ部活で頑張る二人と帰る途中も、気になるのはケータイばかり。二人と別れてケータイを開いても、新着の知らせはなかった。


「はあ…」
「下ばかりを向いているといい事を見落とすぞ」
「うん…、って、えッ!?」


声の主はメールを待っていた相手そのもので。ポケットに手を入れてオレが歩く道に立っていた。


「赤司!?なんで…ていうか部活は!?」
「来週からテストだから、部活も休みなんだ」
「へ、へえ……何でいるの?」
「来てはいけなかったか?」
「う、ううん!全然!会えて嬉しい」
「……そうか」


小さく笑った。その笑顔に胸キュンした。やばい。天使か!
ふと赤司の顔に手を寄せると、ひやりと冷たかった。


「何時から待ってたの!?」
「学校が終わってすぐに新幹線に乗ったからね。6時くらいかな」
「2時間も待ってたの!?メールくれればいいのに…」
「驚かせたくてね。驚いただろう?」
「そりゃあ驚くよ…」
「そうか、なら大成功だ」
「〜〜〜〜っ!!!」


ああ、もう。
無性に抱きしめたくて、オレより3センチほど高い、だけどあまり変わらないと言ったら怒るんだろうけど、その身体を抱き寄せた。


「……ありがと」
「どういたしまして」


抱きしめ返してくれる温度に、ぽっかり空いた穴が埋まっていった。
だけどそうしているのも束の間。すっと離れていった名残惜しい温度は、ボストンバッグを手に持ち腕にはめた時計を見ながらさらりと告げた。


「それじゃあ、僕は行くよ」
「えっ!?」


もう帰るのかと思ったオレの心を見透かしたようにクスリと笑った。


「ホテルを取ってあるんだ。明日はどこか行くだろう?」
「え、あー……うん」


ホント、赤司には敵わない。
一応疑問形だけど、オレが断らないことなんて承知の上なんだろう。
……用事があったらどうしたんだろう。


「僕が君の用事ぐらい知らないとでも?」
「デスヨネー…」


赤司だもんね、うん、納得。
それじゃあ明日、と言って踵を返そうとする赤司の腕を、気づけば反射的に捕らえていた。


「あッ!いや!ごめん!」
「何だい?」


にっこりと笑う赤司の笑顔が怖い。
なんでもない!首を振ると、息をついてスルリと伸ばされた白い手に心臓が跳ねた。


「本当に、」
「……ッ!!!!!」


耳元で囁かれた言葉にふらりと眩む。
負けた。くそう。


「ほら」
「………今日は、うちに…泊まっていって……クダサイ…」


「よく言えました」とでも言うように満足そうに頭を撫でる赤司に脱力する。

そこからはもう簡単だ。家族には友達が来たと言ってそのまま部屋へと案内し、布団をしいてお互い風呂に入って、あとは寝るだけ…なんだけど。


「…赤司ぃー…」
「ん?」
「あの、こっちで寝るの?」


ベッドの下に布団をしいたはいいものの、あの赤司を布団に寝かせるなんてできないわけで。
オレのベッドを使わせてオレは布団。なのに、赤司は布団に潜り込んできた。


「むしろ僕は布団の方が寝慣れてるんだけどね」
「そうなの?じゃあ交代…」
「僕を床に寝かせといて自分は僕より上で寝るつもりか?」


ハサミがきらめいた気がした。
幻覚だ、きっとそう。
暗闇で赤司の目だけが妖しく光っている。


「それに、君のベッドは君の匂いが気になって落ち着かない」
「…っ!?」


ぽすん、と胸のあたりに頭を乗せる赤司に心臓爆発寸前。
ああ、もう、どうしてこの子はこんなに可愛いのか。


「赤司、明日どこいく?」
「そうだな…光樹が行きたい所は?」
「え?うーん……ストバs「却下」


即答で選択肢を失った。困ったオレに赤司は笑いを耐え切れなくなったのか小さく喉を震わせた。


「救いようのないバスケ馬鹿だな……。
仕方ない、プラネタリウムにでも行こうか。たまには落ち着いたところもいいだろう」
「赤司が行きたいならいいよ、どこでも」


この日だけは、日課だったメールのチェックをしなかった。
枕元でチカチカ光っていたとしても、オレにとっては重要じゃない。文面でかけられる言葉より、今、目の前でこうして触れ合っていることの方が、よっぽど嬉しい。

なんて言ったら、君は不敵に笑うんだろう。








2012.11.12

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