夏色
□Another〜もう一つの目線〜
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「………」
『……そんなに熱い視線を送られても困るんだが』
「んなじゃねーよっ気色わりい!」
『じゃあなんだよ』
「別に」
『………』
怪訝な顔で見てくる狭霧を無視して、昨日の夜を思い出す。
監督が言っていたあの言葉。
「不思議なんだけどねー、チームを作ると一人二人は良い子が入ってくるのよ。
田島君は間違いなくスターよ。素材の次元が違うし、荒川シー・ブリームスで四番を打ってた実績もある。
それから花井君ね。あの子もたいていの学校で一軍に入れる子だわ。
その次が阿部君…!あなたが三人目になってくれればうちは…!」
「無理だと思います、俺は捕手を分かってないんでしょ。それに、あいつはどうなんですか」
俺の言う"あいつ"が監督は言わないでも分かったようだ。
"あいつ"……狭霧蜜弥。
三橋の球は見切るし、田島とやり合っても引けを取るどころかそれ以上の実力を持っているくせに、何で西浦に来たのか。
「狭霧君……、あの子も間違いなくスターね。
今は肘のことがあるから野球はしないらしいけど……本気を出したら田島君でさえ足元に及ばないわ」
監督にここまで言わせる狭霧に背筋が粟だった。
投手も出来る捕手もできるその天性の野球センス、プロ予備軍だというシニア。
何もかもが未知数過ぎるその実力を、見てみたい。
「今はコーチだけど、それだけじゃ勿体無いからね。いつかは選手をやらせるよ」
にっ、と笑う監督だが、その目は狙いを定めたような猛獣。
あいつがグラウンドに立つ日が来るのかと思うと、身震いがした。
『そういや、昨日のやつ真面目にやらなかっただろ』
「あ?ああ…」
『次やったら練習倍にするからな』
「って…!」
中指で額を突かれた。軽くなんてもんじゃない、結構痛い。
狭霧の言う昨日のやつとは、瞬間視を鍛えるトレーニングのことだ。
やりながら三橋と話してて集中してなかったからタイムが遅くなったことに、モモ監も狭霧も怒ってるようだ。
「……お前はやらねえのか?」
『発案者は俺なのになんでやるんだよ』
呆れたような顔をする狭霧の言うとおり、あのトレーニングは狭霧が考えたらしい。
「1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25!!!」
『(……おお…)』
「……7秒9です…」
異常ともいえる数値を出した田島に周りは本当に正確だったのか疑う。
『速すぎて目が追いつかないだけだ。田島は正確だったよ』
「狭霧見えたの!?」
『ああ』
「狭霧はどんだけ速いの?」
『さあ……しばらくやってなかったし。
田島よりは遅いんじゃないか?』
やってみてよ!と田島や栄口が言う中、モモ監に呼ばれて立ち去る狭霧。
自分達は二人一組になってお互いのタイムを計ることになった。
『田島は流石ですね』
「うん、そうだね。うちに来てくれてありがたいよ!狭霧君が提案してくれたコレ、効果ありそうだよ!」
『ならよかったです。
シニアでもやってたトレーニングなんで、効果は保障しますよ』
壁に凭れつつ、真剣に取り組む部員を見る蜜弥の目は面白そうに細められていた。
『試合が始まるぞ。三橋のことも、そろそろ分かってやれよ』
「…は?どういう意味だよ」
怪訝に尋ねる阿部にそのままの意味だ、と笑いながら告げた。
Another〜もう一つの目線〜
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