夏色

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『…、来たな』



試合場であるグラウンドにて準備しているとフェンスをくぐった相手校のメンバー。
アップをしていたみんなの視線もそちらへと向いていて、少なからず意識しているようだった。



『(ま、初試合だしな…)』



ここで勝てば勢いがつく。
負けたら負けたで反省を生かすようにするだけだが…。



『(三橋の向上心を失うことなる)』



どうやら三星にいたら贔屓でエースにされるから、エスカレーターの三星から西浦に来たらしい。

野球でそんな目にあわされたら、気の弱い三橋なら野球をやめようと思うだろう。



『(だけど三橋はやめなかった)』



ここでエースになれるかどうか。



『水汲んできます』
「うん、お願いねー」
「私が行くよ!」
『いや、いいよ。代わりにこれ頼む』



後でやろうと思ってた仕事を千代に渡し、ボトルを持って水道へと移動する。
水は意外と結構な重さがあるから、千代一人にはきついだろう。



「大丈夫かいな?」
『え?』
「重いやろーに、俺持つで。貸してみ」
『………』



二つのボトルを両手で持って戻ろうとすると、背後から関西弁で話しかけられ半ば強制的にボトルがなくなった。



「西浦のマネ?かわえーな」
『………(これは、間違いないな)
俺はだ』



高校生になっても間違えられるとは思わなかった。
背の高い、といっても俺と同じぐらいの背丈の三星のやつは、男だと知って固まっている。当たり前だが、ざまぁ。



『手伝ってくれたのは礼を言うが、性別くらい見分ける目を養ってこい』



固まったそいつは放置してベンチへと戻ると、監督がどうかした?と尋ねてきた。



『(言ってもいいものか…)
……屈辱的なことをまあ』
「?そう」



抽象的過ぎて分からなかったようだが、嘘は言っていない。はずだ。

グランドの端でピッチングしている三橋の様子を見ようと覗くと、そこには阿部しかいなかった。



『……三橋は?』
「どっか行ったから今から探しに行く」
『俺も行くよ。二人の方がいいだろ』



阿部の言う三橋が走って行った方へと足を進めると、三橋が蹲って何かをずっと呟いていた。
声をかけようとするが、その前に三星のキャッチャーであろう男が三橋に話かけた。



「…声かけなくていいのか?」
『しばらく見る。三橋の様子が変だ』



昔のチームメイトならば懐かしさに目を輝かせてもいいぐらいだ。
しかし、三橋が昔嫌われていたと言っても、あの怯えようと、相手の男…畠の雰囲気が妙におかしい。



「お前…何でまだ投手やってんの?
お前が身内びいきに胡坐かいてエースやって、中学の三年間負け続けたこと、まだ誰も赦して…ねえよっ!?」
『(な…)』



言い終わるのと同時に、三橋の左肩スレスレの壁を蹴りつけた。
あれが本当にチームメイトだったのかと思うと腹立たしい。



「やっぱあんとき、腕折っときゃよかったか?そんぐらいやんねーと、お前にはわかんねーかあ!?」
「三橋ー」



そろそろ止めた方がいいだろうと思った時、阿部が静かに割り込んだ。
さも、今来ましたというように。


気まずくなったのか、畠は一言三橋に言い残してその場を去ったのを見て、三橋に声をかけるが、三橋は顔を膝に埋めて泣くだけ。
阿部がどうしようかと蜜弥に助けを求めるように振り返るが、その場に蜜弥の姿はなかった。



『…三星学園の、キャッチャーの人?』
「え、そうだけど…あんた誰」
『西浦高校の狭霧。今の三橋のチームメイト』



グラウンドに戻るところの畠の前に立ち塞がる蜜弥の顔を見て、畠は若干頬を赤く染める。

顔が酷く端正な蜜弥にじっと見られ、居心地の悪そうに肩をすくませた。




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